離れていても、これからも、ずっと一緒なんだと思う





      [ こ れ か ら も ず っ と ]





高校1年生、春、桜は散り、仁成はひとりぐらしを始めたそうだ。
私がそれを知ったのは、仁成が小田原に行った後だった。
幼馴染なのだから、教えてくれても良かったのに、仁成は黙って去った。
少し、淋しい。
仁成が近くにいないことと、ひとりぐらしを始めると教えてくれなかったことと。
どんどん、ふたりの距離が広がっていく。
そう思っているのは私だけかもしれない。
『離れていても、心は繋がっているよ』
そう思いたいけれど、離れているだけで、私の心は締め付けられるようだ。

せめて仁成と同じステージに立ちたい。
そう思った私は葉山崎高校の男子バスケ部マネージャーになった。
仁成はバスケをやめると言った。けれど、宝物のように大切にしていたバスケをやめるとは思えない。
絶対、会えると信じていた。
まさか、こんなに早く会えるとは思わなかったけれど。

突然の練習試合。2軍が国府津高校と試合するので、私は付き添っていった。
早めに国府津高校へ行き、私は体育館で準備をしていた。
後で来た部員達の会話を聞く。
「うちの監督の息子がここにいる」
私は耳を疑った。仁成が、ここにいる?
取り乱して、私は運んでいたクーラーボックスを派手な音と共に落としてしまった。
そんなことで動揺するなんて、私は仁成のことが本当に好きなんだなと。
ドキドキして、指先が震える。

試合が始まり、国府津の14番や2階ギャラリーにいる女の子が、仁成の中学時代最後の練習試合で見かけた子達だと認識できた。
あの時、14番くんは仁成のことを気にかけているようだった。
仁成も、きっと気にかけていたと思う。

私の目は2階ギャラリーに釘付けになる。
会いたいと思っていた人がいる。
まっすぐ、コートを見ている。
その目で私を見て、そう叫びたかった。
けれど、叶わぬ夢。
仁成にとって、私なんかよりバスケのほうが大切なんだよ。

ただ、仁成の姿を見ることができて嬉しかった。
仁成は楽しそうにしていた。
それだけで、私は幸せだ。
仁成が元気でいられるなら、それでいい。





試合は国府津の勝利に終わった。
葉山崎は負けた。悔しがって泣いている仲間もいた。
私は、この人達のために、毎日頑張らなくちゃいけないなと、気持ちを引き締めた。
仁成のことでくよくよしていたらダメだ。
私は名門葉山崎高校バスケ部のマネージャーだ!

高岩さんが「なぐさめてよー」と絡んできたけれど、私は軽くあしらっていた。
帰ろうと意気込んでいると、遠くに仁成の姿が見えた。
また、そのうち会えるさ。そう思い、私は仲間と共に葉山崎高校へ帰ろうと足を進めた。
後ろでドリブルする音が聞こえる。
振り返ると、仁成がこちらを向いていた。
目が合った。
仁成は手を挙げて私に合図した。
私は「先に帰ってて下さい」と高岩さんに告げて、仁成の元へ駆け寄った。





「よぉ、久しぶり」

「うん、久しぶり。こんなところで会えるとは思わなかった」

「まさかがバスケ部のマネなんかやるとは思わなかった」

「だって、バスケが好きだもん」





本当は、バスケが好きだからじゃない。仁成が好きだからマネージャーをやっているんだ。
そんなこと、仁成を前にして言えない。そんな度胸はないよ、私には。
たわいもない会話を、私達以外いない体育館でしていた。
少し考えこんだ仁成が「家、来るか?」と誘ってきた。
私は「うん」と大きく頷いた。
せっかく国府津まで来たのだから、仁成の今の家を見てみたい。

校門近くの花壇に腰掛け、仁成が来るのを待つ。
中学は学ランだったから、ブレザー姿の仁成は新鮮だ。
特に、葉山崎は学ランだから、余計新鮮に感じる。男の子は学ランだ、という思考が頭から離れない。
小田原の駅前のスーパーに寄り、晩ご飯の材料を買う。
仁成が料理をするわけがない。そう思っていたのだが、仁成はやはり期待を裏切らない。
私も料理が完璧にできるわけでもないので、簡単にお好み焼きパーティーを開くことにした。
さすがに、仁成の家にもフライパンはあるらしい。
きっと、インスタント食品やシリアルばかり食べてるのだと思う。
年頃の、しかもスポーツマンがこんな食生活していたら、スポーツに影響を与えるのは必至だ。

焼きあがったお好み焼きのいい匂いが広がる。
ソースをぬって青のり、けずりかつお、マヨネーズをトッピング。
ふたり声をそろえて「いただきます」と言えば、立派なディナータイムの始まり。
こうやって、同じ食卓を囲うことができて、私は幸せだ。
うん、もう悩むのはやめる。
私は葉山崎、仁成は国府津で、これから頑張っていくんだ。
離れていてほとんど会えないかもしれないけれど、私と仁成が幼馴染だということは変わらない。
一緒に遊んだこと、勉強したこと、笑ったこと、ご飯を食べたこと、思い出が消えてなくなるわけじゃない。

帰り際、仁成から渡された銀色の鍵。
私は手のひらにそれを載せてきょとんとしていた。
何の鍵だかわからないから。





「この部屋の鍵。3つあって、1つは俺の。もう1つは家にある。これは、が持ってろ」

「どうして、私?」

「んー、なんとなく。いつでもうちに遊びに来れるように、かな。
 まぁ、気軽に遊びに来れる距離じゃねぇから、渡すだけになるかもしれないけど」

「あ、うん。ありがとう。絶対、遊びに来るよ」





これは、仁成が離れていても私と一緒にいたいって思っている証拠かな?
そう思い、私は渡された鍵を大切にしまった。
絶対、遊びに来るよ。
だって、仁成は私の大切な人だもの。









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「ずっとずっと」の続編のような、そうでないような。
最後の「鍵を渡す」というとこだけが、初めから浮かんでました。

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