# 誕 生 日 と ク リ ス マ ス #





 毎年この時期になると、ケーキ屋さんのクリスマスケーキの広告がたくさん新聞に折り込まれている。
 どこに行ってもクリスマスケーキばかりで、誕生日ケーキはあまり置いていない。
 いつも、クリスマスケーキのサンタさんを取り除いて、「HAPPY BIRTHDAY」と書かれたチョコレートを載せている。
 キリスト様の誕生日はみんなが祝ってくれるのに、私の誕生日は誰も祝ってくれないんだね。

 そうやってイジけるのにも疲れた。
 もう16になるんだ。立派な大人にならなくちゃ。

 12月25日、私は16歳になる。





冬になってから、時間は木枯らしのように私の周りを吹き抜けていった。
12月24日、終業式。明日から冬休みが始まる。
朝の学校、体育館からバスケットボールをつく音が聞こえる。
終業式でも朝練をやるバスケ部には感心する。
一応、私の彼氏もバスケ部員だ。一応なんて付けたらいけないのだけれど。
立派なバスケ部員で、エースだもんね。

クリスマスイヴは、仁成と他のバスケ部員達と過ごすことにしている。
部活は終業式終了後午前中で終えて、おやつ時、3時くらいからミニパーティーを開くつもりだ。
買い出しの打ち合わせをしようと体育館に行くと、会う予定だった菫と美加が壁にもたれながら練習を眺めていた。
私もその列に加わって練習風景を眺めながら打ち合わせをする。
いつものことだけど、バスケをしている仁成は活き活きしているし、とてもかっこいい。
一生懸命な、ひたむきな姿は、誰の目にも綺麗に映るだろう。

朝練が終わってから仁成と少しだけ話をして、私は教室へ向かった。
終業式の間、仁成が背の順に並ぶと私の少し前で、ずっと仁成の姿が見れた。
隣だと姿が見えないけど、後ろだとよく見えるんだ。
立ったまま居眠りしているみたいだった。時々カクンと頭が動いていたから。





 クリスマスイヴだから祝わなくてはならないとか、そういう法律なんて無い。
 けれど、みんなチキンを食べたり、ケーキを食べたりする。
 何か、騒ぐ為の口実が欲しいのかもしれない。
 クリスマスだからパーティーを開こうとか、そういう軽いノリなんだろうな。
 私の誕生日も、軽いノリで馬鹿騒ぎしたりできるのかな。

 クリスマスという大きなイベントに、私の誕生日が掻き消されるのが寂しいだけなんだ。

 まだまだ子供だよね、私。もうすぐ16なのに。
 16なんて、大人から見たらただのガキなんだ。





先生から手渡された通知簿は悪すぎず、良くも無く、至って普通だった。
だから意識せず冬休みに入ることができた。
昼ごはんの時間まで2時間ほどあるから、バスケ部の練習風景を眺めていた。
時間つぶしの為にではないけれど、眺めていた。
仁成の真剣な姿は、ここでしか見ることが出来ないから。
時々黄色い声が飛んだりして、嫉妬したり、優越感に浸ったり。
私はすごく単純な人間だなと思う。
そのほうが、他人から受け入れやすくていいのかもしれない。

ただ、あの真剣な姿を見ていると、本当に私なんかが仁成の恋人をやっていていいのかなと疑問に思う。
もっと彼にふさわしい人間なんていくらでもいるはずだ。
その中で仁成は私を選んでくれたから、感謝するべきなのだろう。
感謝するというのはおかしい、何て言えばいいのだろう、運命というわけでもないし、難しい・・・。

空き教室で菫と美加の3人でお弁当を食べて、私達は近所のスーパーに買い物へ行った。
生クリーム、旬の果物、スポンジケーキ、小麦粉、チョコチップ、バターに卵。
ケーキとクッキーの材料だ。
紙コップ、紙皿、フォーク、1.5リットルペットボトルのジュースにポテトチップス。
ミニパーティーの買い出しはこれで終わりだ。
運良く調理室が借りられたから、そこで準備が出来る。

生クリームを泡立てて、果物を適度な大きさに切って、スポンジケーキに飾り付けしていく。
小麦粉、バター、卵をまぜて、クッキーの生地を作り、型で抜いてオーブンで焼く。
ひさしぶりに作るケーキ、プロ職人みたいに生クリームを綺麗にぬれないけれど、私達にはこれくらいのほうが丁度いいよね。
白桃の入った缶の汁をなめてみると、甘ったるくて気持ち悪くなった。
苺を切ると、まな板が苺の汁で赤く染まったり。
友達と一緒にお菓子を作るのはとても楽しい。
ワイワイ騒ぐことがとても楽しい。
オーブンから香ばしいクッキーの香りがしてきた。
焦げないようにオーブンの前にへばりついて見張っていたら、美加に笑われた。
クッキーを作るのは久しぶりだから、うっかりしていて焦がしたら大変だ。
冷蔵庫にしまったケーキはいい具合に冷えた頃だろうな。





 馬鹿騒ぎは外から見たら本当にくだらないものに見えるだろう。
 けれど、中にいる人間にとって素晴らしいものなんだ。
 みんなと笑いあえることが、とてもとても楽しい、よい思い出になるんだ。





パーティー開始時刻5分前、調理室にいつものメンバーが集まり始めた。
といっても全部で6人だけの本当に小さなパーティーだ。
東本がクッキーの香りに喜んでくれたから、私も嬉しかった。
誰かに喜んでもらえると嬉しい。チカラになれるとすごく嬉しいんだ。
相変わらず仁成は冷めた顔だったけど、顔と心の中はイコールで結ばれているわけじゃないから。
立花も相変わらず、つまみ食いしようとするから、菫が叱っていた。
まるでどこかの母親と子供を見ているみたいで可笑しかった。

いつものメンバー仲良し?6人組。
調理台にケーキとクッキーを載せ、それを囲んで6人で座る。
東本が持ってきたスーパーのビニール袋の中から何かを取り出した。
それはパーティーには欠かせないクラッカー。

美加は喜んでクラッカーを鳴らした。東本もそれに続く。
私は菫と一緒に、立花は面倒そうにしている仁成の手に無理矢理クラッカーを掴ませて、鳴らした。
煙たくなったから、寒いけれど窓を開けて換気する。
一気にパーティーの雰囲気ができあがった。ただクラッカーを鳴らしただけなのに。





他愛も無いことを話し、お腹を抱えて笑い、パーティーはお開きになった。
ゴミはゴミ袋にいれてゴミ捨て場にもっていき、借りた道具はきれいに洗って元に戻す。
後片付けが済み、女3人でクリスマスのイルミネーションを見に行く。
男3人は少しだけ身体を動かして、牛丼を食べて家に帰るらしい。
「クリスマスなのに2人で過ごさなくていいの?」と菫に言われたけれど、
恋人達のクリスマスというわけでもないので、私は友達とクリスマスを過ごす。
家に帰ってから仁成に会いにいってもいいと思う。





 夜道、月明かりと街灯が私を照らしてくれる。
 私を守ってくれる人はいないけれど、この明かりが私を温かくつつんでくれる。
 とっても優しいの。
 でも、誰かと一緒にこの温もり感じたいな。





夜の10時過ぎだろうか。私は1人、夜道を歩いていた。
かなり大きな通りに面したところに家があるから、人通りの多い道ばかり通っている。
仲のよさそうなカップルとすれ違うことなんて至って普通のこと。
たまに友達のカップルを見つけたりする。そういう時には必ず「どうしてひとりなの?」と訊かれるけれど。

ふと、後ろから誰かが走っている足音が聞こえた。
人通りが多くとも、周りの気配には気を配っているから、軽く振り返ってみた。
遠くから国府津の制服を着た男の子が走ってきている。
あの背の高さ、色の白さ、仁成に決まっている。

歩道の端に寄って仁成が来るのを待つ。
仁成は私の所まで走ってくると、少し乱れた息を整える。
吐く息は白く暗闇に浮かぶ。





「どうしたの?立花に今まで付き合わされてた?」

「いや、とっくの昔に家に帰った。で、ん家行ったけど、誰もいなかったからブラブラしてた。
 駅前に行ってたんだろ?だから居るかなって思って見に行って、さっき見つけたから追いかけてきた」

「そうなんだ。ありがとう。さすがに明るくても夜道は怖いから」

「当たり前だろ。誰がいるかわかんねぇからな」

「今日、家族みんないないの。仕事とかバイトで明日にならないと帰ってこないの。仁成の家、行っていい?」

「あぁ。・・・行くか」

「うん!」





そう言うと、仁成はそっと手を差し出してきた。
仁成から手を繋いでくるなんてすごく珍しいから、私はすぐ手を出した。
そうしないと、仁成ってすぐに手をひっこめちゃいそうだから。
さっきまで走っていたから仁成の手は温かかった。
私の手はきっとすごく冷たいんだろうね。

手を繋いで、夜道をふたり肩を並べて歩く。
仁成はあまり話してくれないけれど、私の話すことをきっちり聞いてくれている。
今日、3人で見たイルミネーションはとても綺麗だった。
本当は仁成と一緒に見たかったってことは、内緒だけれど。

寒いけれど、繋いだ手が心地よかったのでゆっくり歩いて仁成の家まで行った。
家の中はいつも通り片付けられていてさっぱりしている。

ベッドにそっと腰掛けて部屋を見渡してみる。
仁成はコンロで牛乳を温めていた。ココアを作ってくれるらしい。
窓からは綺麗な月が見える。
静かな夜、暗闇に浮かぶ月は輝いていた。

差し出されたココアはとても温かくて、冷えた身体はすぐに温まった。
左隣に座る仁成のぬくもりがほしくて、私は仁成にもたれかかった。
仁成は私をそっとしておいてくれた。
目を閉じて、ぬくもりを噛み締める。

「クリスマスだからさぁ」
と仁成が壁のほうを真っ直ぐ向いて言った。
クリスマスだから何だろう?
よくわかっていない私を放って、仁成はラックに置かれた小さな箱を取ってきた。
何も言わずに手渡されて、私は戸惑う。





「クリスマスだから、にやるよ。・・・プレゼント」

「あ、あたしに?」

「あぁ、いいだろ、別に」

「あ、うん!すっごく嬉しい」





箱をあけると、中には金と銀の小さな天使が繋がったブレスレットが入っていた。
前にデートしているときに見つけて、欲しかったのに買えなかったブレスレット。
仁成が、私にプレゼントをくれたことが嬉しかった。
しかも私が欲しがっていたものをくれたんだ。私が欲しがっていたことを覚えていたんだ。
嬉しさのあまり、私は泣き出してしまった。
涙が止まらなかった。
仁成は私が泣いていることに驚いておどおどしていたけれど、ぎゅっと抱きしめてくれた。





「ゴメン、俺、何か悪いことしたか?」

「ううん、嬉しくて、涙出てきた」

「喜んでもらえて嬉しい」

「すっごく、嬉しいよ。・・・ありがとう」

「どういたしまして」





仁成はブレスレットを私の左手につけてくれた。
金と銀の天使が輝いている。
多分、私の記憶の中ではこれが初めてのプレゼント。
初めてのクリスマスプレゼント。
いつもクリスマスと誕生日のプレゼントをまとめてもらっていた。
「クリスマスとお誕生日のプレゼントだよ」って。

こんなこと、仁成は知らないんだろうな。

こんな些細なことで泣いてるなんて思ってないだろうな。





「全然、些細なことじゃないだろ。プレゼントの数が減るわけなんだから」

「そう、かなぁ?」

「そうだって。誕生日にもクリスマスにもプレゼントをもらえる奴はたくさんいるだろ。
 だけ例外っていうのは、おかしいと思う。俺は、あんまりそういうの気にしないけど・・・」

「そだね」

「誕生日、おめでとう」

「え?」





棚にたてかけられた掛け時計を見ると午前0時を指していた。
イヴが終わり、クリスマスがやってきた。
クリスマスは私の誕生日。
仁成は私の左手をとって、身体を私のほうに傾けてキスした。
ベッドの上に置いていた携帯がメールの着信を知らせてうなっていた。

「誕生日おめでとう」
ただ一言書かれたメールが4通送られていた。
菫と美加、東本に立花までが。
みんなが覚えてくれていたことが嬉しい、それだけで私の胸はいっぱいだ。

いつの間にか私の左薬指には銀色のシンプルな指輪がはめられていた。
それは、仁成が気に入ってると言っていた指輪と同じ形のもの。
私も、仁成がそれをはめているのが好きだと気に入っていたもの。





「別に婚約してるわけじゃねぇけど・・・な。はもう結婚出来る歳になったわけだし。まぁ俺はまだまだだけどな」

「あ、ありがとう」

「なんで泣くんだよ・・・」

「だって、だって、ほんとに嬉しくって」





まるで子供見たいに泣きじゃくる私の頭を、仁成はそっとなでてくれた。
それがすごく気持ちよくて、眠くなってきて、二人揃って眠ってしまった。

窓から入ってくる陽射しで私は目を覚ました。
ベッドの中で布団を頭までかぶって眠っていたようだ。
隣で仁成はまだぐっすり眠っている。
私は、仁成にクリスマスプレゼントを渡していないことを思い出した。
慌ててかばんの中からとりだして、仁成の首にかけてやった。
シルバーのチョーカー。
本当に、仁成はシルバーアクセサリーが好きだし、似合っている。

そっと仁成の頬に唇を落とした。
眠ったままの王子様は、私に大きな思い出をくれたよ。
ありがとう。










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私は誕生日がクリスマスのちょい前なので。
わからない人にはわからないことなのかもしれませんが。
小学生の頃、私にはクリスマスプレゼントが無くて誕生日プレゼントとまとめられていた。
それを思い出して書いてたのです。
今はクリスマスという存在が家の中で消えつつあるのでいいんですけどね。
誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントを分けてもらえるとすごく嬉しかった。
天使のブレスレットは本当は銀色1色なんですけど、500円で売ってるんです。


I'll dream ... ?
dream select page ... ?

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