# 歩 き 続 け る #





来週は定期演奏会。
小さなホールで近隣の小中高が合同で演奏会を開くのだ。
吹奏楽部に所属するは、久しぶりに夕方6時まで学校で演奏の練習をしていた。
辺りから運動部の掛け声、ボールを打ったりついたりする音は聞こえなくなっていた。
夕日が沈みかけている。
は帰りに体育館をのぞいたが、仁成はすでに部活を終えていたので誰もいなかった。
バスケ部の部室に顔を出すと、東本から仁成が帰ったことを知らされた。
は仁成と一緒に帰る約束をしていたが、仁成がすっぽかしたことを知りがっかりしていた。
仕方なく校門を一人でくぐるが、朝から仁成の様子がおかしかったので、きっと国府津の海で青春感じているかもしれないと思い、海を目指した。

潮の香りがする。
は家から持ってきたお菓子をつまみながら海沿いを歩いた。
仁成がいないかキョロキョロしながら探す。
砂浜へ続く石段を降りると、の足元に仁成のスポーツバックが放置されていた。
砂浜に目をやると、仁成が砂浜をうろうろしている。
は「物騒な世の中なのに荷物放置とはいい度胸だ」と思いながら、バックの横に腰掛ける。
頬杖をついて仁成を眺める
一向に仁成はに気づかない。
再びはがっかりした。
だが、夕日で赤く染まった砂浜と海と空を眺めて穏やかな気持ちになっていた。

砂浜を歩く足音が次第にに近づく。
音の方を見ると、仁成が戻ってきていた。





「悪い、何にも言わずに先に帰った」

「うん、仁成が悪い。けど、ここにいるってなんとなくわかったからよかった」





ニっと笑うを見て、仁成は安心した。
の隣に仁成は腰掛ける。
隣り合って座っているのに、二人は何も話さず遠くを見ていた。
はどう話を切り出すか考えていた。





「さっき、菫ちゃんに聞いたんだけど、長崎に行っちゃうんだってね」

「あぁ」

「仁成はここで続けるの?」

「当たり前だろ」





相棒がいなくなっても、仁成はバスケットを国府津で続けると言う。
は、仁成の相棒がいなくなることに心苦しく感じていた。
やっと見つけたものだったのに、と。
はそっと横に置かれている仁成の手に触れた。すると、仁成はの手を握るのだ。
は仁成にぴたっとくっつくくらい距離を縮める。
触れた肩同士が温かさを保っていた。





「あいつはいなくなるけど、あいつの時間が動き出したんだから、それでいいだろ。俺も、前に向かって歩かねぇとな」

「葉山崎は・・・?」

「あんなとこ行かねぇよ。ここが俺の居場所なんだ。それに・・・ここにはもいるし」





相変わらず仁成は遠くを見ていた。
は目を閉じて仁成の肩に頭を預ける。





「ありがとう。私も、今は仁成と一緒がいい」

「今は?」





期間を限定する言い方に仁成は首を傾げる。
目の前に別れが迫っているような言い方に仁成は戸惑いを隠せない。
動揺する仁成を見て、はドキリとした。
私は何か間違ったことを言ったのだろうか、と。





「今は、って何?」

「へ?だって、もしかしたら仁成と私が別れる時が来るかもしれないから、今はって限定してみた」

「なんだ、すぐにどっか行くのかと思ったよ」





仁成はの手を握る力を強くする。
動揺を隠し切れなかったことを恥ずかしく思うのと同時に、が側に居なくては前向きに歩けないことを、仁成は悟っていた。
相棒と恋人を二人同時に側から手放してしまったら、向かう目標があったとしてもすぐに折れてしまうかもしれない。
精神面が弱いことを仁成はわかっていた。
だからこそ、不器用な気持ちだけれど、相棒と恋人を自分に繋いでいたのだ。
は仁成が平静を装っているものの、相棒との離別に少なからずショックは受けていることを悟っていた。
家族と離れて暮している仁成を支えられるのは、自分と他の仲間達だということもわかっていた。





「私は、仁成と一緒にいるよ。一緒に前向いて歩く。例え仁成と別れたとしても、私は前向いて歩くよ。
 だから、仁成も前向いて頑張ろう!立花君も長崎でこれから頑張るんだもんね。
 私達も頑張ったんだよって胸張って言えるように、無様な姿、見せないように頑張ろうね」

の言葉に仁成は勇気をもらっていた。
の手を引いて立ち上がる。





「もう、帰ろう」

「うん」





手と手を繋いで、二人は歩き始めた。
そして、ずっと歩き続ける。
未来の彼方へと。









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これ、いつ書いたんだろ。
1ヶ月近く経ってからやっと名前変換してきました。
久しぶりにアイル読み返して14巻ばかり読んでました。
相棒との別離が身にしみました。
メンタル面が弱い人を見ると守りたくなるんだよね、私って、自己中な割には。
いい子ちゃん面してるだけか…(-.-;


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