悪戯してみよう。

たまには私がかわいがってあげよう。

なんて思うのだけれど・・・・・・。





      # 悪 戯 #





正直いうと私は茶化されるキャラだから、いつも周りの皆に遊ばれている。
だから、仁成にも遊ばれていて、彼女という立場なのかさっぱりわからない。
たまには、こっちから悪戯してみたい。
といっても、何も思いつかない。
そんなこと、したことないから。
きっと、故意にしようとするから思いつかないんだ。
自然に生み出された発想でもってするから悪戯なんだろうな。
意図的にやっていたのなら、そんなものれっきとした行為なんだ。
ま、よく考えれば悪戯でさえ、その行為のひとつなんだろうけど。

眠いから休み時間に机に伏せて寝る。
それはごく当たり前の風景だ。
私は授業中に居眠りしたくないから、机に伏せていた。
気配というものは全く感じなかった。
、何やってんだよ」と聞きなれた声がしたから身体を起こしたら、仁成は私の隣で笑いをこらえてた。
仁成とは同じクラスではない。どうして、わざわざやってきたのだろう。
仁成は私の背中に手を伸ばす。
戻された手にはプリントに太い黒ペンで「柊オバカ」と書かれていた。
この字、立花以外にありえない。
私は仁成からプリントをもぎ取ると、両手でくしゃくしゃに丸めて前に向かって勢いよく投げる。
3つ前の席に座っている立花の頭に、紙くずは直撃した。けれど、普通、紙くずを当てても痛くない。
それがわかってたから、私はその紙くずの中に消しゴムを仕込んでおいた。
私と同様に眠っていた立花は痛みに目を覚まし、勢いよく振り返る。
目をギラギラ光らせて私を見ている。そして、消しゴム入り紙くずを投げ返す。
もちろん、私はそれを右手で受け取り、消しゴムを取り出してゴミ箱へ紙くずを捨てた。
仁成は一連の行動を見て笑いをこらえている。
滅多に仁成は大声出して笑わない。さっきから笑いをこらえてばかりだ。





「さっきから笑ってばかっりじゃん、仁成ってば。そんなに面白い?彼女がコケにされるのが」

「あぁ、面白い」

「ストレートすぎる。ちょっと嘘ついたっていいじゃんかよー」

「やだね」

「もうっ」

の顔、風船みてぇにふくらんでるぞ」

「人を指差すなっ」





遠くで「やっぱり柊バカだよな、は」と溜め息混じりに言う声が、私の耳に入った。
仁成のこと溺愛しているわけではないけれど、他所から見たらバカップルに見えるのかもしれない。
きっとそれくらいが丁度いい。
コケにされるだけマシだ。親衛隊なんて相手にもしてもらえないから。
誰かに必要とされていて、私は今、人生の花を咲かせているのかもしれない。
あとは枯れるだけ・・・なんて思ってもいないよ。
枯れたってまた来年花を咲かせるのだから。

休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
仁成は私の頭をポンポンとなでて、慌てもせずに教室から立ち去った。
どうせ、屋上でサボるつもりなのだろう。
私は授業を受けながら、たまに窓の外を眺めて仁成のこととか、持ってきたお弁当のおかずはなんだろうとか、考え事をする。
きっと相手のことを想っている時点で私の負けなんだろうなと思った。
悪く言えば、仁成に溺れている女なのだから。
溺れているつもりは無いけれど、きっと外から見たらそうなんだろうな。
ぼーっとしていたから先生に指名されても気づかない。
隣の席の美加に叩かれてやっと気づいたけれど、先生には叱られた。
美加には「どうせ柊のことでも考えてたんだろー?」と言われたし。
はいはい、その通りなんです。





授業が終わり、楽しみな昼休み。
菫と美加と私の3人でお弁当をつついて、それぞれ部室に行ったり委員会で召集をかけられたり。
私は宿題も予習も終えていたから、ぶらぶら廊下を歩いていた。
仁成の教室を覗いたけれど、仁成の席はからっぽ。でもかばんはおいたまま。
私は、仁成のかばんの中身を調べてから屋上へ向かった。
きっと仁成は昼ごはんを食べていないはず。
案の定かばんの中は空だった。仕方なく購買でパンとジュースを買ってきた。
少し埃のかぶった階段を駆け上がると、錆び付いた扉がある。
購買の袋を腕に掛けて両手で扉を押すと、ギギギと扉の軋む音が聞こえた。
扉の向こうには青空が広がっている。
青空と、飛行機雲と、だだっ広いコンクリートの上に仁成が。
給水塔の壁にもたれて、両足はコンクリートの上に投げ出して、瞳を閉じてすやすやと眠っている。
眠っている仁成はとてもかわいらしい。
私はにんまりと笑って、仁成の隣に腰を下ろした。

白い頬を指でつついて肌の弾力を確かめて、掌で頬の温かさを感じて、風になびく柔らかい髪を梳いて。
こんなに綺麗な顔だから、悪戯しようという気も起きない。それくらい、整っている。
うらやましい限りだ。私には少しも持ち合わせていないものばかり持っていて・・・・・・仁成はずるい。
むっとしたから、仁成の頬をつねった。
すると、仁成の眉間に皺がよったけれど、またすぐに元に戻った。
痛みよりも眠気のほうが勝ったらしい。

空を眺めて、時間が過ぎていく。
移り往く雲を眺めて、時の流れを感じる。
仁成は目を覚まさない。
私は目を閉じる。
まぶたの裏は太陽の光を透かしいれ、少し眩しい。

ゆっくりと肩に重みを感じた。
まぶたを開いて太陽の世界に飛び込む。
隣に居る仁成が、頭を私の肩に乗せて眠っていた。
あまりにも気持ちよさそうに眠っている仁成。
だから、私は身動きが取れなくてそのまま仁成と一緒に眠ることにした。





直射日光が痛い。
暑さに目を覚ました私は、額にうっすらと浮かんだ汗をぬぐって隣を見る。
まだ仁成は私の隣ですーすー寝息をたてて眠っている。
私はもう一度仁成の頬を軽くつねった。
すると、今度は仁成が目を覚ました。
私は驚いて目を大きく開いたけれど、仁成はそれ以上にもっと驚いて飛び跳ねて私との距離を置いた。
そして、隣に居たのが私だと気づいた仁成は、ふーっと息を吐いてまた、隣に座った。





「なんだ、か」

「なんだ、とは何よ。はい、昼ごはん食べてないんでしょ?これでよければどうぞ」

「ありがとう」





差し出したパンとジュースの入った袋をさっと仁成は奪い取る。
そして、ストローを突き刺し、ジュースを少し飲んでからパンにかぶりつく。
その姿を見ていて、なんだか子供っぽいなと思った。
もちろん、私達はまだ子供なんだけれど、無邪気で綺麗な心を持っているように思えたんだ。
だから、そんな心を悪戯で汚したくないなと。
やっぱり、私に悪戯することは無理なんだ。

仁成に悪戯することを諦めた私は、大きく息を吐いた。
心にたまっていたものが全部吐き出されたようだ。
すっきりした私は、大きく宣言する。





「私は、仁成達からの悪戯に耐え抜くことを決めた!」

「はぁ?」

「どうせ、私が悪戯したって悪戯にならないだろうし、仁成にしてみれば蚊を叩き殺すようなもんでしょ?
 ならば、私が耐え抜くしかないんだよ!」

「壊れたか、?」

「壊れてなんかありません!」





私はまた風船みたいに顔を膨らませる。
そうすると、仁成は笑いをこらえるんだ。
私は単純だから、単純な反応しかできないんだ。
それを仁成が楽しんでくれるのなら、それで十分かもしれない。
仁成が笑ってくれるのならそれでいいや。
昔は、全然笑わない氷の人だったもの。

がいると安心するよ」
ぼそっと仁成が言った言葉は私の体温を一気に上昇させる。
顔も、耳も真っ赤であろう私をそっと覗き込む。
交わした短いキスはオレンジジュースの味。
甘くて、少し酸っぱい、恋の味?





「バカ、何にもでないよ」

なんかに期待してもなぁ」

「ヒドイ!仮にも彼女だよ」

「彼女とか、あんま関係ないし」

「仁成らしい答えだね」

「けど、やっぱり、は俺の彼女だし」





仁成の腕が私の肩に回される。
そのまま抱き寄せられて、私は座っていた位置を移動する。
もちろん、仁成に近づいて。





「大事だから、ずっと構っておかないとどっか行ってしまうような気がするんだ。
 ずっと反応を見ておかないと、すぐに消えてしまうような気がしてな」

「仁成・・・・・・」

「けどな、に悪戯すんのは楽しいからいい」

「何がいいのよっ!」





ククッと笑いをこらえるような声を出す仁成。
私はむっとして肘鉄を仁成のわき腹にくらわせた。
眉をぐっとひそめる仁成を、勝ち誇ったような顔で見ていたら、突然おでことおでこがくっついて、仁成の顔が目の前にあった。
「痛いだろ」と笑いながら言う仁成。
「自業自得でしょ」と同じく笑いながら言う私。
仁成はすっと目を閉じて、私にそっとキスした。
私は黙ってそれを受け留める。
唇が離れると、仁成は立ち上がってスタスタひとりで屋上から校舎の中へ戻ろうとする。
「待って」と叫ぶと、仁成は珍しく立ち止まって振り返ってきた。
いつもなら、歩くペースを落として歩き続けるのに。
仁成の気遣いが嬉しくて、私は駆け足で仁成の隣についた。









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最後のほう意味がわからないのはいつものことなんだけど(汗
仁成さんは悪戯すんの好きそうだなぁと。
彼女は悪戯ばっかりされてるけど、実はそれを楽しんでいたり。
うわぁ、いいなぁ、そういう関係。

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