[ トゥインクルウォーター ]





 体育館の扉を全開にして風通しを良くしてもちっとも風は通ってくれない。タオルを首にかけて水道水をタンク一杯に入れてスポーツドリンクの粉末を入れてかき混ぜる。汗が滴り落ちるし、目の中に入って沁みる。マネージャーの仕事って大変。選手と同じくらい大変で参ってしまう。辞めずに二年生を迎えられたのは、誘ってくれた高岩に悪いと思うし、かっこいい成瀬くんの姿を特等席で見ていられるから。昨日も今日も、きっと明日も明後日も成瀬くんはかっこいい。高岩も、かっこ悪いとは思わないけど。
 ボトルにスポーツドリンクを入れて部員全員分用意する。一年生の部員が手伝ってくれるけれど、強豪校なのだからマネージャーもう少し募集しようよ。入部勧誘を頑張れなかった私が全面的に悪いのだけれど。
 一年生と三年生にできるだけ接点を作りたくて、一年生には三年生にボトルを配ってもらう。本当は私が二年生に配りたいだけ、成瀬くんに手渡しして、事故で手が触れたりしたら嬉しいな、なんて不純な動機だ。
 一番にやってきた井上くんは癒し系枠だから朗らかに、美濃輪は柄が悪いから普通に、成瀬くんにはお疲れ様と頑張っての気持ちをたっぷり込めて笑顔で渡す。
 そういえば高岩がまだきていないなと思いながらボトルを体育館の隅に置いて自動販売機に向かう。持ってきた水筒に入っているお茶じゃなくて何か甘いものが飲みたい気分なのだ。小銭を入れてりんごジュースのボタンを押そうとしたら、背後からやってきた人物が桃の香りがするミネラルウォーターのボタンを押した。振り返れば奴がいる。

「高岩! ジュース飲みたかったのに!」
「あ、悪いな。なんかが飲みたそうに感じたから」
「全然違うとこのボタン押そうとしてたの見てたでしょ! バカ!」
「まぁまぁ、そう言わずに」

 自然な仕草でミネラルウォーターを手に取り、キャップを外して私に渡すのかと思えば、自分でぐびぐび飲む始末。金返せ!
 飲みかけのミネラルウォーターを渡されて、高岩に突き返した。もう一度今度はジュースを買うんだと意気込んで財布から小銭を取り出すと、高岩がポケットに手を突っ込んで小銭を手のひらに広げていた。さすがに悪いと思ったのだろうか。彼は自動販売機に小銭を入れて、私に「これ?」とりんごジュースを指差して尋ねる。頷けば高岩の指がボタンを押した。指、長いな。手のひらも大きいし、見上げる程背も高い。男の子なんだよな、と思い知らされる。
 取り出し口からりんごジュースを取った高岩は、キャップを外して渡してくれた。優しいところあるじゃん!
 甘いものを欲していた私は、一口飲んで潤いにうっとりする。
 すると、高岩は私の手ごと掴んでりんごジュースを飲もうとするのだ。失敗して顔に少しかかっていたけれど。

「ちょっと、私の勝手に飲まないでよ!」
「いいじゃん、一口くらい。甘いもの飲みたい気分だったんだよ」
「私が作ったスポドリで満足して!」
「それはそうなんだけどさ、なんか今日のの唇がな……」
「私の唇がどうしたっていうの?」
「俺を誘ってるんだよ!」
「はぁ!?」

 まったく意味が分からない。

 部活が再開して、そういえば高岩と間接キスしちゃったなぁとぼんやり考えていると、高岩ばかり目で追っている自分がいることに気づく。成瀬くんのことを追いたいのに、高岩からめが離せない。どうしちゃったんだろう、私。

 どれもこれも夏の暑さのせいだ。そうだ、そういうことにしよう。










タイトルはOTOGIUNIONさんからお借りしました。

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もっと甘酸っぱい話が書きたかったのに、未来のケンカップルになってしまった。

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