[ コイビト未満 ]





 七夕生まれの人には何をプレゼントするのがよいだろう。七夕と言えば笹に短冊、七夕飾り。笹繋がりで笹団子でもいいかも。そんな軽い気持ちで笹団子を物産展で探して買ってみた。高岩は喜ぶだろうか。文句言いながら受け取って食べるだろうな。
 私と高岩はただのクラスメイト以上友人未満といったところだろうか。クラスメイトの中では仲良しの方だし、友人と呼ぶほど一緒にいるわけでもない。ま、クラスメイトでいいか。

 朝練終わりですでにプレゼントをたくさんもらったらしく、部室の三分の一が高岩宛てのプレゼントで埋まっているとかいう噂まで流れている。そうだ、プレゼントをたくさんもらう人だから私からの笹団子なんて迷惑かもしれない。しかも生もの。ネタだと思ってくれればいいや。そんな風に軽く考えながら席に着いた高岩のところに近寄る。

「誕生日おめでとう。七夕が誕生日の高岩クンには笹団子をあげよう」
「おう、ありがとう。で、笹団子?」
「生もので迷惑だよね。他の人にあげてくれてもいいんだよ」
「いやいや、にもらったものなら真っ先に食べる。ありがとな」

 時計を見やった高岩は即座に笹団子の包みを開けて食べ始めた。授業の前に食べるとは思わなかったので驚いて高岩の前に手を出してしまった。朝練後に笹団子はどうかと思う。もっとタンパク質のあるものなど、体にいいものを食べるべきでは?
 止めようとする私を怪訝そうに見つつも、笹団子を食べる手を止めない高岩は本当に変わり者だと思う。

「うまかった。ごちそうさま」
「朝練後に笹団子は合わなくない?」
「いや、よかったよ?」

 あっけらかんとしているけれど、実は私に気を遣ってくれたのかな。そんなことを思いながら自分の席に戻って授業が始まるのを待った。後ろの方の座席の私には高岩の後頭部がよく見える。朝練後の一時間目の授業から舟をこぐ姿がいつまで経っても見られないのは弱みを掴めなくて残念だけれど、何事にも真面目に取り組んでいる姿は尊敬に値する。
 そう、やっぱりクラスメイト以上友人未満。バスケ部次期キャプテンで人気者の彼を友人と呼ぶのはおこがましい。

 放課後、一人でのんびり帰っていると、後ろから駆けてきた人に肩を叩かれた。振り返ると高岩が手に大きな紙袋を提げて立っている。隣に並んでなぜか一緒に帰ることになった。一緒に帰ったことは一回あったと思う。

「すごいね、プレゼントの山」
「ありがたいことに、毎年山なんだよな」
「高岩クンは好きな子からはもらえたのかな?」
「もらえた」
「よかったじゃん!」

 軽い気持ちで訊いてみたら本当に答えてくれて、しかもよい回答だったのでなんだか私まで嬉しくなる。好きな人がいるっていいな。うらやましい。

「小学校にミニバスの練習を見に行ったら笹があってさ、七夕飾り作らされたんだよ」
「へぇー、いいね」
「短冊書いてもいいっつーから、好きな子から誕生日プレゼントもらえますようにって書いたら叶った」
「七夕すごい! 高岩、やるじゃん」
「でも恋人未満ってところから進めないんだよな」

 つまり仲良しということだ。割と好き嫌いは激しくなさそうな高岩だから、誰とでも仲良くやっているイメージがあって特別仲の良い人がいるかは私にはわからない。そんなに高岩のことを観察してるわけではないから。

はさ、短冊に何て願い書く?」
「私? なんだろう。期末テストで結果を残せますように、とかかな」
「ほんと、現実的だな」
「何? 悪い? 白馬の王子様が迎えに来てくれますように、とか書いてほしかった?」
「ははは、そしたら俺が迎えに行く」
「なんで高岩が!?」
「そりゃ、好きな子から笹団子もらったからなー。、おまえ絶対俺のこと恋人未満にしか思ってないだろ?」
「えぇっ」

 恋人以前に友人未満と思ってた、なんて言ったら高岩が悲しむと思って何も言えなかった。高岩の好きな子って私なの? 信じられない。笹団子をプレゼントするようなセンスしかない私のどこがいいのだろう。

「まぁ、予想通りの反応だけど、実際に目にするとキツイな」
「想定の範囲内ですみません……」
「別に付き合ってくれとは言うつもりはないし、当分部活第一だから」
「そこは勉強第一、第二がバスケじゃないんだ」
「バスケ、勉強、の順だな」

 私、高岩の中で三番目なんだ……。
 どうしよう、私、高岩のこと好きになれるかな。
 好きになって大丈夫かな。

「バレンタインデーにチョコレートもらえたら脈ありって思っていいか?」
「あー、あぁ、そうね、そうだね。随分先だけど」
「考えてよ、俺のこと。特定の白馬の王子様がいないのなら」

 小さく頷くと高岩は笑った。
 









* * * * * * * * * *



ハッピーバースデー高岩さん!

inserted by FC2 system