[ まぶしいからだいきらい ]





 いつだって高岩という男はきらきら輝いて眩しい。バスケをする姿なんて眩しすぎて直視できないし、見たら目が潰れてしまうに違いない。だから見ないようにしている。かっこいい高岩は見ない。私が見るのは教室でバカやってる高岩だけ。
 今日も英語の辞書を忘れてきたと言って、隣の席に私から授業中に借りようとする。可哀そうだから貸してあげる私はエライ。お礼にお菓子でももらいたいぐらいだわ。何回貸せばいいのだろう。というか、どうしていつも忘れるのだろう。

「さんきゅー。いつも助かります、センパイ」
「私はあんたの先輩じゃないっつの」
「今度、何かおごるから、さ」

 部活も真面目にやっていて、辞書は忘れるけれど成績も悪くない。見た目もイケメンに分類されるし、部活をやってるから体格もいい。本当に申し分ないやつ。きゃーきゃー黄色い声があがるのもわからなくはない、いや、よーくわかる。私がそういう女子に混ざらないのは最後のストッパーの役目を果たすため、なんて自負している。
 そんなの意地っ張りにすぎない。結局のところ、もっと好きになって叶わぬ恋に苦しみたくないだけ。

「好きな人いるの? いるよねー?」
「それ、俺に訊いてる?」
「えっ、私、独り言……」
「まぁ俺も健全な男子高校生だからいるけど、バスケ第一だから付き合うとかそういうのはないな」
「そうなんだ。真面目なんだね」
「そういうは?」

 問われて正直に答えるか迷ったけれど、高岩にだけ答えさせるのは悪いので正直に答える。いるけどお付き合いしたいとは思わないから今は友達のままでいい、と。
 友達と言ったけれど、高岩が私のことを友達と思っているかどうかもわからない。ただのクラスメイトくらいにしか思っていないかもしれない。

 放課後、教室掃除を終えてジャンケンで負けた私はゴミ捨て場までたまったゴミを捨てに行く。人の寄り付かない校舎裏に人影を見つけて知らないふりをしながら彼らの視界に入らないように通り過ぎる。人影は高岩と後輩と思わしき女子生徒だった。おそらく女子生徒が告白しようと高岩を呼び出したのだろう。
 バスケ第一だから付き合うとかそういうのはないと言っていたけれど、好きな相手から告白されてもそんなこと言えるだろうか。流されて付き合うことだってあり得る。あの女子生徒は高岩の想い人か? 否か? 結末を知りたくて陰から見守ろうかと思ったけれど、下世話だなと思ってゴミを捨ててさっさと帰ることにした。

 翌日の放課後、部活が休みなので奢ってくれるという高岩に付き合ってカフェに入る。奢りだから遠慮なくカフェラテとケーキを注文して私は満足だ。
 同じくカフェラテを注文して飲んでいる高岩は唐突に口を開く。

「昨日さ、後輩に告白されて」
「なに〜、モテ自慢?」
「自慢じゃないって。あまりにも食い下がってくるから、うっかり俺の好きな相手は同じクラスのってやつーって言っといた」
「え? 言っといたってそんな簡単に言う? しかも私? その後輩に私が何かされたらどうするの?」
「まぁまぁ、落ち着いて」

 へらへら笑うところは高岩らしい。その顔も悔しいことに整っていて罪だなと思う。嫌いになれたらどれだけいいか。好きになる以外の選択肢が私にはない。

「まぁ、の身に何かあれば俺が守るから大丈夫」
「高岩の言葉は信用ならないからなぁ……」
「そう言わないで信じてくれてもいいじゃん」

 知ってる、高岩が信用できる人間だということは。そうじゃなきゃ好きになったりしない。

「本当に俺が好きなのはだから、男に二言はない、絶対守る」
「ありがと。……って、え?」
「そういうこと」

 高岩が私のこと好きって言った? 私たち、両想いってこと?
 高岩は柄にもなく頬を赤く染めて私から視線を逸らす。恥ずかしがって、かわいいところあるじゃん。

「それで、は俺のことどう思ってるんだ?」
「それは……まぶしいから……」
「から?」
「……ダイキライ」

 笑顔で伝えた言葉は、本当の意味を汲んでもらえたようで高岩は笑っていた。
 彼は私が天邪鬼なことをよく知っている。










タイトルはalkalismさんからお借りしました。


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嫌よ嫌よも好きのうち。
辞書を忘れる高岩さんは、ヒロインから辞書を借りたいだけで忘れ物が多いわけではないです。

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