[ 見えなくたって、そこにはミルキーウェイ ]





梅雨で毎日、曇天、曇天。晴れ間が見えやしない。
高岩くんの家の窓から晴れ間が見えないか、なんて馬鹿なことを考えても、現実はそうはいかない。
七夕も雨。織姫と彦星が年に一度会える日もあいにくの天気らしい。
高岩くんの部屋の窓を開け、空を見上げても太陽の日差しは見えなかった。


「もうすぐ七夕でしょ。年に一度しか会えないのに、天気が悪いなんてかわいそうだね」
「地球上じゃないから関係ないんじゃん」
「あぁ、そっか。地球から天の川が見えないだけか」
「そう、こっちから天の川が見られないだけ」


高岩くんの言うことはもっともだ。
織姫と彦星は、天気が何だろうと毎年七夕にはふたりきりで一年分の愛を確かめ合う。
それに便乗して、笹に飾りをつけ、短冊に願い事を書く地上人。

私は毎日学校で高岩くんと顔を合わせられる。
デートだって、高岩くんが忙しくなければ行ける。
携帯電話があれば、いつだって連絡が取れる。
好きな人に会えないのは、どういう気持ちなんだろう。

気配もなく近づいてきた高岩くんは、後ろから抱きついてくる。
耳元で囁かれて、くすぐったい。


さんは、俺がいるのに考え事ですかー?」
「うん」
「正直すぎる」
「ごめんね。織姫と彦星のこと考えてたら、切なくなって。
 高岩くんに会えなくなって、電話もメッセもできなくて、会えるのは一年に一度だけって、どれだけ辛いことなんだろう」
「俺にいつ会えなくなる? スマホ壊したわけでもないから、電話もメッセもいつだってできる。学校に行けば同じクラスなんだから毎日会える。
 それじゃ不満? 俺たち、織姫と彦星じゃないだろ。と覚司」
「そう、だね」


腑に落ちていないわけではない。
でも、歯切れの悪い返事をしたから、高岩くんは苛立っている。
」と名前を呼ばれて振り返ると、頭をホールドされて唇を塞がれる。
息ができなくて高岩くんの胸を叩いても、まるで抵抗にならない。

ようやく離してもらえたと思えば、むせて咳き込んでしまった。
恋人同士がキスをして、それが強引なものだったとしても、甘い空気に包まれるのが当然で、それを私はぶち壊した。
高岩くんを余計苛立たせてしまう。


「ごめん、なさい」
は悪くないよ。俺が悪かった。ごめん、無理矢理して」
「ううん、ごめんね。七夕のことは忘れる。だって、その日は高岩くんの誕生日だもんね」
「そう! もっと俺のこと考えて!」


人が変わったように目をキラキラと輝かせて、高岩くんは私を見つめてくる。
いつだって、高岩くんは太陽みたいに輝いている。
私の心の梅雨空だって、吹き飛ばしてくれる、大好きな人。


「ちゃんと誕生日プレゼント用意してるからね」
「うん、知ってる。先週買いに行ったんでしょ」
「エスパーなの?」
「成瀬と一緒に買いに行ったんだろ。美濃輪が、と成瀬がデートしてるとこ見たって言ってた。俺もデートしたかった、成瀬と」
「なんで成瀬くん!?」
「冗談だよ。プレゼント、楽しみにしてる。今年は日曜で部活だから、会えないと思うけど」


誕生日デートができなくたって、月曜日になれば学校で会えるし、家も知っているから誕生日にプレゼントを届けにくることもできる。
今度は成瀬くんと買い物デートじゃなくて、高岩くんとデートしたいな。









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ハッピーバースデー、高岩さん。
梅雨で天の川は見えそうにありません。
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