[ 予定にないプリズム ]





「誕生日おめでとう!」「おめでとうございます!」「素敵な一年になりますように、祈ってます」
「インターハイ、頑張ってください!」

はいはい、ありがと、ありがと。
そう言いながら義務的に誕生日プレゼントを受け取る。
今年の誕生日は土曜日だというのに、俺の誕生日を祝うためだけに登校する女子生徒、他校からわざわざ駆けつける女子生徒であふれかえっていた。
「好きです。付き合って下さい」とも、言われた。
「ごめん、俺、今バスケ以外のこと考えたくないから」と嘘をついて断り続ける。

思春期の男子が女の子に興味ないわけがない。
俺にだって好きな子くらいいる。
でも、美術部の彼女は俺みたいな運動部員に恋をしたりしない。
年上の大人の男に恋しているに違いない。
今日だって、俺の誕生日を祝いに来たりはしない。
俺が出ている試合だって、見に来たこともないだろう。

プレゼントの山を持てるだけ持って帰る。
紙袋から溢れた箱が転がり落ちた。それを拾って差し出す、白くて小さな手。
手の主の顔は、こんなところで出会えるわけもないと思っていたあの子。


「はい、どうぞ」
さん……」
「すごい量だね」
「あぁ、うん、すごい量だよな。まだ部室にもある」
「ほんとすごい、モテモテだね。あ、誕生日、おめでとう。言ってなかったね」
「ありがとう。さんは、なんで学校来てんの?」
「もうすぐ展覧会があるから、作品作りの追い込みでね。そういうときだけ土日も来てたりするの」


文化部でも大会のようなものがあって、それに向けて頑張っていることはあまり知らなかった。
自分のことしか考えていなかった。
そんな俺が、さんから好かれるとは思えない。
さんは、少し俯き俺に問うた。


「高岩くんは彼女いるんでしょ。プレゼントもらったの?」
「俺? え、俺、彼女募集中」
「あれ、他校の子が告白して断ってるところ見ちゃったけど」
「あぁ、バスケ以外考えたくないってやつ?」
「うん」


俺よりも数十センチ小さいさんと並んで会話すると、どうしても彼女は俺を見上げ、俺は見下ろす形になる。
目が合った。瞳の奥底まで見えそうなくらい、何もかも見透かされそうなほどに、一瞬が数十分に感じた。


「優しいね、高岩くんは」
「どうして」
「できるだけ傷つけないように断ったんでしょ」
「うん、まぁ、あとは、好きな子いるって言って、嗅ぎまわられるのも嫌じゃん」
「そうだね。そんなこと言われたら嗅ぎまわりたくなっちゃうけど」


さんは小さく笑った。
また、同じ箱が紙袋から転がり落ちた。今度は俺がそれを拾う。
さんが俺の好きな子を気にする理由は何だろう。
ただの興味本位に違いない。


「そういうさんは、好きな奴いるの?」
「えっ、私? あ、えっ、っと」
「その慌てようは、いるってことだな。葉山崎? 他校? それとも大学生とか社会人とか?」
「い、いるけど、絶対教えない」
「絶対って付けるくらい、俺のこと嫌い?」
「そういう意味じゃないって!」


よく考えれば、まともに会話したこともなかった。
ただクラスメイトと過ごしている姿を見て、いつの間にか好きになっていた。
隣にいたらきっと楽しいだろうなと思っていた。本当に会話が楽しい。
波長が合うようだ。


「いるよ。でも、今は邪魔したくないし、見てるだけで十分」
「そいつは、何かに頑張ってるんだな」
「うん。だからずっと応援してる。美術室からは見えないけど、時々外を見て休憩して、がんばってるかなーってずっと思ってる」


美術室から運動場は丸見え。
見えない場所は、体育館の中、校舎内の別の部屋。
これでさんの好きな人が葉山崎ということはわかった。
どの部活だ。何年だ。何組だ。誰なんだ。


「これくらいでカンベンして。高岩くんの好きな子はどんな子?」
「俺の好きな子は……」


クラスメイトで、美術部に所属していて、今までほとんど会話したことはなかったけれど、とても波長が合うことに気づいた。
今、隣にいる君。

そんなこと、言えるわけがない。


「好きな子は?」
「言えない。ごめん」
「いいよ、気にしない」


さんは笑ってくれたが、空気が重い。
少しくらい言えばよかったか。葉山崎くらい、言ってもよかった。
重い空気を作っているのは俺だ。


「高岩くんはさ、その子が自分のこと応援してると妄想したりしない?」
「妄想?」
「そう。私は時々しちゃう。がんばってーって言ってる声とか表情を想像してる。そうすると、とっても頑張れる」
「俺も、してるかも、妄想。
 でも、俺なんかには興味なくて、試合の応援に来てるところ見たこともないし、大学生とか社会人と付き合ってんじゃないかって」
「大人っぽいのかな、その子」
「それこそ、妄想」


顔を見合わせて笑った。
ポジティブな妄想をするさんと、ネガティブな妄想をする俺。
正反対だ。
ないものに惹かれる。間違っちゃいない。

今はまだ、言わない。
でも、いつか言おう。卒業するころには、正面からあの澄んだ瞳を真っ直ぐ見て伝えよう、俺の想いを。






お題はOTOGIYUNIONさんからお借りしました。

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誕生日おめでとう、高岩さん!
両片想いの高校生たち。


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