[ 火 恋 し ]





十月も後半に入り、朝晩は羽織るものがないと辛くなってきた。
部活帰りの夜道は寒く、暖をとりたくなる。
まだ手袋とマフラーは早いか。

暗い夜道を駅に向かって歩く。
葉山の坂を下っていると、女子生徒の後姿が見えた。
一人で危ないなと思い、彼女と同じペースで歩く。
彼女に近づきすぎず、遠すぎず、誰かを割り込ませるようなことができない間隔。

ただ、彼女が誰だか気付いたときには、彼女の隣に並んでしまった。



さん、今帰り?」
「高岩くん!そうなの、遅くなっちゃって」
「書道部で?」
「ううん、あまり体調よくなくて、保健室で寝てたけど追い出されたから図書室で寝てたらこんな時間だから慌てて出てきた」



笑っているけれど、少し無理をしているような笑い方。
血色もあまりよくないか。
手には使い捨てカイロを持っている。
寒いのか?



「カイロって早くない?」
「あったまったらよくなるかなって」
「持ってたんだ?」
「かばんに入れてる。折りたたみ傘とカイロはいつもね」



突然右手で目の前を覆うさん。
「ごめん、先に行って」と言い、立ち止まる。
置いていけるわけないだろ。
俺も立ち止まる。
さんはその場にしゃがんでしまった。



「ちょっと目眩がして、気持ち悪い」
「大丈夫か? 誰か呼ぶ?」
「大丈夫。ちょっと休憩」



無意識のうちにさんの背中に手を当ててさすっていた。
女子の体、気楽に触っていいものじゃないだろ、と思いつつ。
ただ、抵抗されないから、そのままでいた。



「ありがとう。高岩くんの手、温かいね」
「部活してたから、体があったまったままなんだよ、きっと」
「帰る。家帰って寝る」
「そうしたほうがいい」



自然と俺が先に立ち上がり、さんの手を引いて体を起こしてやる。
今日の俺、すごいな。
恋人でもない人の体に触って、訴えられないなんて。
引いた手を離そうとした。
離せなかった。
しっかりと掴まれたままだから。



「このまま、帰ってもいい?」
「このままって、手を繋いだまま?」



こくりと小さく頷いたさん。
胸のドキドキが止まらない。
女子の手を握ったことがないわけではない。
昔付き合った子とキスしたことだってある。
味わったことのない緊張感に目眩がしそうだ。










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秋に書きかけて、アップしたの春ですが何か←(何かじゃねーわ、アホか!)
こういうの、すごく好き!
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