【金瘡小草 (キランソウ)】





夏を迎え、インターハイが終わった。
三年生の先輩方は部活を引退し、俺たち二年生が部活を率いていくことになる。
部長に任命されたのは俺だった。
俺が、葉山崎を全国大会へ連れて行くんだ。

部活のことで頭がいっぱいの俺は、本業の勉学をおろそかにし、恋人のことも放っていた。
さすがに、成瀬が殺人光線を打ってきたときにはまずいなと思った。



「高岩、中間試験の成績、酷かったな」
「高二は中だるみの年だからな。俺だって、たまには成績も下がるさ」
「俺に負けた言い訳か。情けないな、部長のくせに」
「部長だから成績がいいってわけじゃないだろ」
「それに、さんが悲しそうな顔をしていた」
が・・・」
「お前が欲張っているとは思わないが、もう少し考えたほうがいいんじゃないか」



成績も上々、部活もレギュラーになれた、そんな頃にと出会った。
他校の先輩。しかも、学校内のミスコンで優勝するほどの美人さん。
積極的にアプローチしない理由がなかった。
彼女も俺に興味を持ってくれた。
そして、恋人付き合いが始まったけれど、部長になった俺と受験生のの心は離れてしまった。

一年、なんとかもったな。
今までの交際は、半年も続かなかった。
頭上には青空は広がってなどいない。ただ、体育館の天井が雨を遮っていた。
今日は、一日中、雨か。
と会う約束をしている日は、たいてい雨が降る。
どうしてだろうな。俺が雨男なのか、が雨女なのか。

余所見をしていたら、美濃輪にボールを投げつけられた。
背中がバチンと音を立てて痛い。



「ギャラリーいるのに、そんな面さらすな!」
「はいはい。美濃輪に言われたくはないな」
「じゃあ、しっかりするんだえ」



偵察組もいるだろう。
ただ、大半は俺たちの見た目が好きで来ている女子生徒ばかり。
何が面白いのだろう。バスケットに興味がないのに、俺たちを見ていて楽しいのだろうか。



「楽しいよ。好きな人が頑張っている姿は見ていて楽しいし、励まされる」
「そういうもんかなぁ」
「覚司にはわからないよ。そのご本人だからね。覚司もそういう人、見つければいいじゃない」
「俺は・・・」



傘が邪魔で、二人の距離が遠い。
部活が終わり、人気のない裏口から学校を脱出して、待ち合わせていたと一緒に帰る。
わざわざ葉山まで来てくれた。その意味はなんだろう。



「もう、私のこと好きじゃないでしょ?」
「そんなことは、ない・・・はず」
「ほら、断定できてないよ」
「いや、」
「いち、バスケット。に、勉強。さん、私」
「ああ、うん、そんな感じ」
「私もね、いち、勉強。に、勉強。さん、勉強」
「俺いないじゃん!」
「ふふふ、よんくらいかな」



の笑った顔が愛らしくて、曇っていた心が少し晴れた。
我慢なんてしなくていいんだ。
いつも、自分の心に正直でいればいい。



「俺、もうバスケットのこと以外、考えられない、考えたくない」
「私も、勉強のこと以外、考えたくない。
 大学ですべてが決まるとは思わないけれど、今の私ができることは勉強しかないの」
「じゃあ」
「待ってるね」
「え?」
「私の受験が終わって、覚司が落ち着いて、お互いのことを考えられる余裕ができるまで、待ってる」
「・・・」
「待ってる。少なくとも私は。・・・あ、重かった?」
「いや、全然。俺も、頑張る。に会える日を、待ってる」



どうしてだろう。すんなり、恋愛休止を受け入れられた。
が、俺のことを見捨てないと確信できたからか。
不思議だな。の真っ直ぐな心が、俺まで真っ直ぐにさせてくれる。
明日から、バスケットと勉強を頑張ろう。
春になったら、二人で笑える日が来ると信じて、バイバイと手を振った。







キランソウ:待っています

From 恋したくなるお題 (配布) 花言葉のお題1


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仁成さんのestoに出てきた高岩さんと彼女のお話。
第三希望までに入っていなかったときは、圏外じゃなくて第四希望と言いますよね。
会社の今の事業部は、リアル第四希望でした。まぁ圏外なんだけど。
あと、1,2,3全部同じなのも好き。
高岩さんは大人女子が合うなぁ。

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