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久しぶりのデートで張り切ったのに、覚司の知り合いに出会ってばかりで私はまちぼうけ。
こんなに顔が広いなんて知らなかった。
たしかに、葉山崎のエースとなれば有名人かもしれないけれど、特に困るのが女子のファン。
私が隣にいるのもお構いなしでキャッキャキャッキャ黄色い声をあげて騒いでいる。
さすがの覚司も、これには顔がひきつっているけれど。



「高岩くん!休みの日はこのあたりに来るんだねー」
「ああ、まあこのあたりは俺の縄張りだし」
「縄張り!じゃあ私たちは縄張りに侵入〜」



顔が引きつっているわりに、彼女たちとの会話を楽しんでいるようだ。
私と一緒にいるより、不特定多数の女子と一緒にいるほうが楽しいようだ。
私は少しむっとして、覚司を放って先を歩くことにした。
慌てた覚司は、すぐに走って追いかけてきた。



「ごめん。ほんと、ごめん。だいたいが隣にいるのに、空気読んでくれって話だよな」
「私に同意を求めるな」
「うっ、ごめんなさい」
「覚司が人気者なのはわかってるから、私が霞んで見えちゃうよ」
「そんなことない!不特定多数の女子の中で惹かれたのが、だったんだ」
「過去系?」
「現在進行形で今も惹かれてる」



この笑顔だけは私のもの。
恋人の私にだけ見せてくれる、特別な笑顔。
そう信じている。

覚司の手に触れ、手を繋ぐ。
彼女たちは覚司と手を繋がない。ただ話すだけ。
彼女たちは覚司と手を繋ぎたいと思っているのだろうけれど、覚司はそう思っていない。…はずだ。
とはいえ、覚司も男だから、ハーレム状態に気をよくしてしまうかもしれない。
私だけを見ていて欲しい。
そのために何の努力をすればいい?
色気よりも食い気の私は、どうすれば覚司を繋ぎとめられるのだろう。



「俺は、と一緒にいるときのこの空気が好きだな」
「なにそれ!私じゃなくて空気が好きなの?」
「違うって。のことが好きで、一緒にいるときのこの雰囲気が好きだって言ってんの!だいたい、どこの誰が女より空気が好きになるんだよ」
「あ、そうだね。でも、雰囲気って具体性に欠けるじゃん」
「そうだな、具体的にか。と一緒にいると、落ち着く。ぱーっとはしゃぎ倒すのもいいんだけど、それは誰とでもできることなんだ。
 一緒にいると楽しくて、幸せで、それでいて落ち着くってレアじゃん。それがなんだよ。
 たまにいるだろ、こいつと一緒にいると楽しいけど疲れるって奴」
「あぁ、たまにいるよね。美濃輪とか」
「ぶはっ、それ、美濃輪に失礼!」



そういえば、覚司と一緒にいると疲れない。
楽しいし、幸せ。
お腹が痛くなるほど笑ったりするけれど、全然疲れない。
覚司が、疲れないようにうまくやってくれているのかと思っていたけれど、元々疲れない相性なのだろう。
気疲れしないっていいな。
でも、調子に乗って捨てられないように、思いやりは忘れないこと!



「私も、覚司と一緒にいると楽しいし、幸せで落ち着くよ」
「あぁ、これからも仲良くやろうな」
「うん」



未来進行形でいたい。









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高岩くんは人気者なので、デートしててもたくさんの人に引っかかりそう。
いや、実際かっこいいもんな。しょうがないよな。
だからこそ、落ち着ける場所が必要だと思いました。

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