[ あい らぶ ぱんだ ]






『ねぇ、覚司くん。パンダ見たくない?』
はじまりは、さんのその一言。
久しぶりにさんから電話がかかってきたなと思えば、突然そんなことを言われた。
動物園か。
けれど、遠距離恋愛中の俺たちが一緒に動物園に行くのは無理なのでは?





『上野動物園にパンダがきたから、見たいんだよねー』
「わざわざ上野動物園まで行くんですか?」
『うん!パンダ見たいから、有給休暇を使って連休にして実家に帰ろうと思ってるの』
「へぇ、いいっすね!」
「部活のお休みはあるかなー?」





カレンダーをさっと眺める。
そういえば、来週の金曜日は、高校入試があるから休みだったな。
それを伝えると、さんはとても嬉しそうにしていた。
顔が見えなくても、嬉しそうに笑っている表情が頭の中に浮かぶ。

久しぶりのデート。
長期休暇でさんが帰省しない限り、デートはできないんだ。
いつも電話かメール。ときどき、さんから手紙が届いたりする。
早く会いたい、手を繋ぎたい、ぎゅっと抱きしめたい。
そんなことを思いながら、眠りについた。
翌週の金曜日になるのは、あっという間だった。





最終の新幹線で帰ってきたというさん。
金曜日の朝だというのに、待ち合わせ場所には遅刻せずに来てくれた。
そういう俺は、小学生が遠足の前日に眠れないのと同じ状態になってしまい、気がつけば眠っていて寝過ごしかけた。
大慌てで朝食を摂り、家を飛び出した。
そんな日に限って、成瀬から電話があるのだけれど、無視する。
明日、部活で会ったら殺人光線をくらうだろうなぁと思いながら。

三ヶ月ぶりだろうか。
久しぶりに会ったさんは、優しく微笑んでいた。
顔を合わせて、笑顔を交わして、二人で並んで歩く。
手を繋げば、ぬくもりが伝わる。

一緒にいられることが、どれだけ幸せか。
笑顔が見られることが、どれだけ幸せか。





「パンダ見れるのが嬉しくて嬉しくて」
「そんなにパンダが好きなんですか?」
「うん!パンダかわいいからねー」
「俺よりも好きですか?」
「それは悩んじゃうね」
「え?俺よりパンダですか?」





さんが俺のことをからかっているのはすぐにわかったけれど、気づかないフリをする。
けれど、そんなことはさんにはお見通し。
「はいはい、こういうやりとりはおしまいにして、久しぶりのデートを楽しもうよ」
さんの言葉に、俺は頷いた。

手を繋いで、目が合えば微笑んで、心も繋いで、幸せだ。
一緒にいられることが、とても幸せだ。
部活のときや、学校にいるとき、家にいるときには味わえない、幸せ。





「覚司くん、嬉しそうだね」
「そりゃそうですよ。さんと一緒ですからね」
「嬉しいこと言ってくれるね」





お互い、今、幸せなんだ。
今日という日が終われば、また離れ離れだけれど、今日という日だけは一緒にいられるから。
少しでも幸せをかみしめていたい。









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パンダ見たい!!!
私が見たいのは和歌山の白浜アドベンチャーワールドのパンダ。
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