[ 友達の次に進みませんか? ]





休日に同級生と偶然遭うことは滅多に無い。
けれど、なぜか奴にだけはしょっちゅう遭う。
高岩覚司。
悪友とでも呼べばよいのだろうか。
もしかしたら血のつながった双子なのかもしれない。
それくらい、異性の中ではいちばんの仲良しで気が合う。

自転車に乗って図書館へ向かっていたら、高岩と出くわした。
派手なボーダーのニット帽をかぶって、これからお出かけらしい。
それとは対照的に、私は黒いコートに、黒いパンツ。
高岩は開口一番「成瀬みたいだな」と。
確かに、成瀬くんは、いつもモノクロの世界にいるように見える。





「いいじゃん、冬なんだから地味な色で」
「寒いからこそ、こういう派手な色で世界を温めるんだよ!」
「派手すぎだよ、それ。目立ってしょうがないじゃん。これ以上モテてどうすんの!?」
「いいんだよ。モテる男はつらいよな」
「私は女だから、モテる男の気持ちなんてわかりませーん」





こうして、軽口を叩ける相手がいて幸せだ。
中学時代は、あまり異性と話ができなかった。
緊張してしまうから。
今の私がいるのは、高岩のおかげ。

私は駅前の図書館へ向かう。
高岩は駅へ向かう。
向かう方向は同じ。
私たちは、一緒に歩みを進める。

笑ったり、怒ったフリをしたり、人間として感情をうまく表現できるようになった。
周りからは「変わったね」とよく言われる。
全部、高岩のおかげ。
感謝してもしきれない。
それで、彼氏ができたんだ。
でも、別れてしまった。
好きなフリをしていると、相手から指摘された。
私が彼のことを好きなフリをしていたと?

はじめは好きじゃなかったかもしれない。
けれど、付き合っているうちに惹かれたんだ。
何度も訴えたけど、ダメだった。
だから、彼は私じゃない人と今は幸せそうに付き合っている。
私はひとりぼっち。





「彼氏と別れたんだって?まぁ、わかる気がするけどな」
「どーいう意味よ、それ」
「俺と一緒にいるときのほうが、は楽しそうにしてるって感じたんだけど?」
「そりゃ高岩と一緒にいるときは楽しいよ。でも、彼氏といるときも楽しかった」
「本当に?」





真面目に追求してくる高岩に、少しどぎまぎする。
バスケットをしているときのように、真剣な顔をしている。
いつもの、ヘラヘラ笑った顔じゃない。
私は高岩から目を逸らした。
隣から笑い声がしたから、また高岩のほうへ視線をやる。
笑っていた。
いつもどおりの高岩だった。
少し安心した。

でも、高岩の言うとおりなんだ。
彼氏と一緒にいるときも楽しかった。
けれど、少し気を遣っていた気がする。
彼氏だから好きでいなくちゃいけない、好かれたいから優しくしなくちゃいけない。
そんなふうに思っていた。
高岩と一緒にいる今、そんなことをみじんも思っちゃいない。
本当に、自然体でいられる。

こういう人と、付き合うべきなんだろう。
けれど、一年以上も友人として付き合っている。
今更恋心なんて、起きやしない。
それは高岩にとっても同じことだと思う。
それに、高岩のことを好きな女の子はたくさんいるから、私なんて選びっこない。





「俺は、といるときがいちばん楽しいかなー」
「嬉しいこと言ってくれるよね」
「ま、事実だからな。好きな人と一緒にいるときがいちばん楽しいだろ?」
「そうだよねー。・・・・・・え?」
「え?」





高岩、今、何って言った?
『好きな人』って言った?
それ、私のことをさしてるの?
友達として、好きな人ってこと?

私のことをからかっているのだろうか。
高岩はまた笑っている。
私はふくれっ面になって高岩に不満を訴えかける。

「友達としても、異性としても、は俺にとっていちばんなんだよ。知らなかった?」
そんなこと言われても、「知らなかった」としか答えられないよ。

気がつけば、通りの向こう側に図書館が見えた。
もう高岩とはお別れだ。
なんだか中途半端な会話になってしまった。
結論が見えない。
いや、結論を出す必要があるのか?





「じゃーな、。今日は成瀬とデートだけど、今度ちゃんとデートしような」
「本気で言ってるの!?」
「本気、本気、チョー本気」





なんだか、まだからかわれている気がする。
高岩とキスしたい、ハグしたいとは思わないけれど、まずは高岩のことを恋愛対象として見ることから始める。










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恋愛対象として見ることからはじめてもらいました。
私自身、仲のよい異性としか話せなかった。
大学が理系で男性ばかりだったので、今では男性のほうが話しやすい。
というか女の子っぽい会話ができなくて困る><
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