[ 夏 の 縁 側 ]





夏だ。
湿度が高くてベタベタする。
それなのに、この、この、このっ!
この人は、ベタベタと私に触れてくる。
覚司に触られるのが嫌なわけではない。
けれど、ただでさえ暑いのに、もっと暑くなるようなことをするなと言いたい。
というか、言っているのだけれども・・・





「だーかーらー、暑いからベタベタすんなって言ってんじゃん!」

「いいじゃん、と一緒にいたいんだよ。貴重な休みなんだから」

「一緒にいるだけでいいなら、くっつかなくてもいいじゃん!暑いー」

は俺のこと、嫌い?」





真面目な顔で、私の目を見て話すものだから、拍子抜けしてしまう。
嫌いじゃないよ、好きだよ、大好き。
けれど、それとこれとは別物。
冷房が苦手な私は、我が家の縁側で、覚司と一緒にスイカを食べて風鈴の音を聞きながら涼んでいるのに。
私は、体に回される覚司の腕を振りほどいて、縁側にごろんと寝転がる。
中に着たキャミソールの丈が短いから、寝転がった拍子にお腹が外気に触れた。
覚司は空を見上げて、スイカを頬張っていた。

暑いな。
風が止んだ。
うちわで扇がないと、風がこない。
寝転がってゆっくり扇いでいたのに、急に風が強くなる。
覚司がこちらを向いて、笑ってうちわで扇いでくれていた。
覚司が送ってくれる風が心地よくて、私は目を瞑った。
恋人と一緒にいて、目を瞑るのはキスの合図・・・しまった。
我に返ったときには風がなくなり、唇に触れる何かがあった。
覚司は、今にも私に覆いかぶさろうとしている。
私は慌てて飛び退いた。





「そんなに慌てなくてもいいじゃん。
 さすがの俺でも、こんな人目にに着く場所でをどうこうしたりしないよ」

「さ、さすがの俺でもっていう辺りがアヤシイよ」

「露出の高いが悪い!」

「開き直るなー。ただ、私は、覚司とスイカ食べてのほほんとしたかっただけなの!」





覚司は「わかった、わかった」と言って笑っていた。
本当にわかっているのだと思う。
それから、覚司はベタベタ私に触れてこなかった。
しばらくして、お祖母ちゃんが買い物から帰ってきた。
それから、今夜の夏祭りの出店のチケットをくれた。
お母さんは、「発掘終了」と言いながら、紺色の浴衣でバッサバッサと風を送りながら縁側にやってきた。

夏だ。
暑い。
けれど、夜には少し楽しいことが起きそうだ。

夕方になると、お母さんとお祖母ちゃんが夕飯の支度を始めた。
その合間に、お母さんは私に浴衣を着付けてくれる。
覚司は、弟と一緒に飼い犬の散歩に出かけていた。
ただの彼氏なのに、なんだか家族の一員のように馴染んでいる。
仲が悪いよりはマシだ。

六時になれば、夏祭りが始まる。
私は覚司と一緒に会場へ出かけた。
夕方になれば、真昼の太陽がジリジリと私たちを焦がすこともなく、夜風が心地よくなった。
覚司の手を握れば、振り払われる。





「暑いからくっつきたくないって言ったのは、どこの誰かなぁ?」

「ちょーっと、夏祭りデートだってのに手を繋いだらダメなの?」

「一緒にいるだけでいいなら、くっつかなくてもいいじゃん」

「うわぁ、それどっかで聞いたセリフだな・・・ごめんなさい」




私がしゅんとしていると、覚司は笑っていた。
私はムッっとして顔をしかめた。
すると、覚司は私の手を握ってくれる。
顔を見れば、また笑っていた。
なんだか、今日の覚司はよく笑う。
覚司の笑顔に救われるんだ。

わたあめのチケットを持って、私は小走りでわたあめ屋に向かう。
夏だから暑いし、蜂もいるし、蝉の死骸に怯えたりもする。
突然の夕立でびしょぬれにもなる。
けれど、わたあめ食べて、覚司と手を繋いで。





 し あ わ せ だ









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夏祭り☆
わたあめ大好きチョッパー☆


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