[ 次に会うときまでに ]





一喜一憂してばかりだ。
似たような人を見かけては、さんではないと気付き、がっかりする。
こんな近場で会えるはずがない。
カップルを見かける度に、うらやましく思う。
会いたい、な。
遠距離恋愛の辛いところ。

携帯電話の電話帳。
開いてさんの名前を眺める。
電話をする勇気がない。
忙しくて迷惑なんじゃないかとか、いろいろ考えてしまう。

昔撮ったプリクラのデータが今の俺の携帯電話の壁紙。
幸せそうな顔をしている二人に嫉妬する。
そこに写っているのは自分なのに。
過去の自分自身に嫉妬する。


会いたい、会いたい、会いたい。


そんなことばかり考えている。
女々しい?
何と言われようが構わない。
たださんに会いたい。
電話じゃなくて、会って話をしたい。
笑った顔が見たい。

ため息をひとつ吐く。
横浜での試合帰りのジャージ姿、店のショーウィンドウに映るそれはくたびれて見える。
こんな姿を誰かに見られたくないな、と思いながら歩く。
そんな日に限って知り合いに会ってしまう。
しかもさんだったりする。

驚いて固まっているさんを見て、俺は目が点になる。
パンツスーツ姿のさんの隣には、さんと年が変わらなさそうな男の人がいて嫉妬する。
誰にでも嫉妬してしまう。
きっと仕事仲間の男の人だろうに。

知らないふりをした方がいいのだろうか。
顔を逸らして、歩き出した。
少し、パニック状態。
どんなに厳しい試合でも、こんな風にならないのに。


「覚司くん、覚司くん!ちょっと待って!!!」
さんに声を掛けられても足が止まらない。
なんで、止まらないんだ。
右の手首を誰かに掴まれて、やっと足が止まった。
振り返ってさんの姿を確認する。
さんに会えて嬉しいのに、どうしてさんはそんなに悲しい顔をする?





「覚司くん、久しぶり」

「うん、そうですね、お久しぶりです」

「どうしてそんなに悲しい顔してるの?私はいない方がいい?」





さんに言われて気付いた。
俺が悲しい顔をしているから、さんも悲しい顔をしていたのだ。
まだ、心は落ち着いていない。
首を振って、さんの言ったことを否定した。
とんでもない。さんに会えて嬉しい。
けれど、まだ嬉しさを顔に出せない。
どうして出せないんだ?

さんはこんな表情の俺にも優しくしてくれる。
手をぎゅっと握り締めてくれた。

「覚司くんに会えてよかった」
その一言で、荒れた心が少し落ち着いた。

「仕事で横浜に来てたから、偶然とか奇跡に期待してよかった」
それは俺に会えるという偶然とか奇跡だよね。

「私のこと嫌いじゃなかったら、お願い、ちょっとでいいから笑った顔見せて。このままじゃ帰れない」
さんのために笑えるか?なぁ、ちょっとでいいから笑ってよ、俺。
さんを困らして、誰が得するんだ?俺は損するだけだろ。





「ま、まだ、ちょっと笑えないかも・・・」

「そっか、それなら無理しなくていいよ。
 今度、会えたらちょっとでいいから笑った顔見せてね。必ず」

「はい、必ず」

「じゃあ指きりしよっ」





さんは笑って俺と指きりする。
嘘ついたら針千本飲むから、今度会ったら絶対笑うって約束する。
あれだけさんに会いたいと思っていたのに、いざ会ってみるとこれだ。
もっと強くなれ。
次にさんと会うときまでに強くなる。
こんなにも俺のことを掻き乱すのはさんくらいだよ。









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会社の先輩と指きりして約束したことがあるので、
それを元にしつつ遠距離恋愛な高岩さんを書いてみました。
うまく笑えないこともあると思う。
そんなときは、また元気なときに笑えばいいよ。
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