[ 壁 紙 登 録 ]





慌てて腕を掴んだけれど、振り払われた。
もうオシマイなんだ。
どう足掻いても、元通りになることなんてない。
俺のどこがダメだった?
教えてくれないと、また同じ過ちを繰り返してしまいそう。

最後に見せた、の苦しそうな表情が忘れられない。
今まで見せてくれた笑顔はニセモノ?
頭の中はぐちゃぐちゃ。
心の整理整頓は少し苦手。
ランニング中、不注意から転んだ。
運悪く、隣のコートでシュート練習していた連中のこぼれ玉を頭が直撃。
気を失ってしまった。
気がついたら保健室のベッドの上。
保健の先生と誰かが会話している。
邪魔したら悪いと思って布団をかぶった。
けれど会話は筒抜け。





「だから別れちゃいました。私の心がつぶれちゃう前に、あの人のことが好きだって言えるうちに」

「それでよかったの?さん、本当は彼のことが好きでしょうがないんでしょう?」

「はい、好きです。でも、彼が全国大会とか上のほうを目指すのに、私は邪魔ですから。
 もっと器が大きくなれたら、そのときはもう一度付き合いたい。
・・・ただのワガママかな、私のやってることは」

「とっても大人ね。でもあなたが傍にいてくれるだけで、高岩くんは強くなれると思うよ。
 別れたことでダメになっちゃうよ、あーいうタイプの子は。
 今頃すってんころりん、転んで頭打ってる気を失ってるかもね」





と保健の先生の会話。
話の中心は俺のこと。
俺のことを支えたいがために別れを選んだ
何も知らずにいた俺。
最後に見せた苦しい表情は嘘じゃない。
あれがの全て。
瞼を閉じればの笑顔がたくさん浮かぶ。
涙がこぼれそうになってふとんを頭の上までかぶった。

が保健室を去った後、先生にお礼を言って体育館へ向かった。
先生のニヤニヤした気持ち悪い顔が忘れられない。
仲間に倒れたことを謝って部活に合流する。
が望んでいることは、俺がバスケットで上を目指していくこと。
の期待に応えて、に支えられなくても頑張れるように。

スリーポイントシュートの練習。
コートに描かれた半円の外からシュートを打つ。
雑念がなければシュートは決まる。
今日の成功率は高かった。
と別れて、気持ちを入れ替えた。
結果はついてくる。

あれから何週間経ったある日。
件名も本文もない、添付ファイルだけの携帯メールが送られてきた。
送り主は成瀬。
「ウイルスか!?」と思いながら開いてみた。
カメラ目線ではないけれど、はじけそうなくらい輝いているの笑顔の写真だった。
斜めを向いている。あきらかに盗撮だ。
あまりにもよい写真だから、思わず壁紙登録した。
部活の朝練で、成瀬に真相を尋ねた。





「なぁ、あの写真なに?」

に、高岩の頑張ってる姿を送ってくれと頼まれた。
 この前、シュート練習している高岩の写真を撮って送ったら、あんな表情したから撮って高岩に送っただけ」

「じゃあ、あの笑顔は、俺に向けてってこと?」

「携帯の中の、な」





インターハイが終わったら、と話せるかな。
また、恋人同士になれたなら、今度は俺がたくさんを支えてあげたい。
の心がつぶれないように、崩れないように。









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一緒にいても支えられないことで苦しくなってつぶれそうになったり、
自分を守るためには、両想いでも別れることは必要になるのかも、と思ってみた。
何事にも、うまくいく時期とうまくいかない時期はあると思う。
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