[ ハ ッ ピ ー デ ッ ド マ ン ]
大慌てで家を飛び出して走って、行き着いた先で息を整える間もなく手を引かれて、ショッピングセンターの中を駆けた。
の目的地はここ。ショッピングセンターの中の映画館の前。
今日は土曜日。映画の公開初日。
春休みだから子どもアニメの初日で、小学生くらいの子どもたちがたくさんいた。
その真ん中に、着ぐるみのキャラクターがいて、携帯のカメラやデジカメで写真を撮られ、子どもたちにボディタッチされ、忙しく働いていた。
の目的は映画でなくて、これ。
このキャラクター、ドラえもんとツーショットをとることが目的。
高校生がこんなところで何やってんだか。
けれど、に付き合って俺はここにいる。
「いいなー、かわいいなー」との呟く声。
俺といるときの笑顔とはまた違った笑顔。
今にもとろけそうな、甘いもの好きながケーキを食べているときのような笑顔。
幸せそうにしている。
繋いだ手は解かれた。
は小学生の輪の外から、ドラえもんを眺めている。
そんな大人の女に気づいてドラえもんも近づいてくる。
どうせ中には大人の男が入っているのだ。
小学生なんかよりに興味があるのだろう。
俺としては、不愉快だけれど。
俺は手渡されたデジカメと携帯で写真を撮る。
は喜び、笑顔でドラえもんと握手をするんだ。
携帯の待ち受け画面に撮ったばかりの写真を設定する。
終始笑顔だ。
「だってドラえもん、かわいいじゃん」
「女のかわいいと男のかわいいは違うからな」
「だよねー。どう違う?」
「とりあえず、ドラえもんよりのほうがかわいいと思うけど」
「はぁ・・・」
褒めているのに気の抜けた返事をする。
そこは少し顔を赤らめて「ありがとう」って言うところだろ、と思いながらも、そんなことを言えずにいる。
媚びたりしない。
殺し文句で殺されない。
変わってるけれど、それがの普通。
和菓子屋さんの前を通りかかるとドラ焼きが目に付いた。
は気づいていない。
の手を引いて和菓子屋さんの前で立ち止まる。
キラキラ目を輝かせるは、まるで小さな子どものよう。
「ドラ焼きだー」と声をあげる。
お店のおばちゃんに「2つください」と声を掛けた。
ドラ焼きを食べれば、あんこの甘い味がする。
ドラ焼きを食べて、隣にはがいて、も同じようにドラ焼きを食べて。
平和な日常だな、と思った。
それがいつまでも続けばいいな、と思った。
そんな夢物語なんてないだろう。
でも、今は、そんな夢物語の中に浸っていたい。
「ね、覚司。プリクラ撮りにいこーよ!久しぶりじゃん」
「行くか」
「やった!」
プリクラ撮って、が落書きするのを横で見て。
はさみで切って半分ずつにわける。
携帯に貼り付けて終了。
幸せすぎる。普通だけれど、それが幸せすぎる。
幸せすぎて死にそうだ。
ハッピーデッドマン。
ひんしのじゅうしょうだ。
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短いですが・・・。
こういう日常が瀕死の重症を負わせるんだなぁと思いました。