[ か っ ぱ え び せ ん ]
わかっているのにやめられないのは、どうしてだろうか。
どんなに努力したって、は俺を振り返りはしない。
1%の可能性を信じているわけでもない。
ならば、どうして、俺は彼氏がいるのことを追い続けるのだろう。
理由なんてわからないけれど、恋をするのに理由はいらないから、このままでいい。
「こらー、高岩!!ぼーっとしないの」
の甲高い声が教室に響いた。
口を真一文字に結んで、眉間に皺を寄せている。
ほうきですっと俺を指した。
参ったな。
そんなに格好良い姿を見せられたら、もっと好きになってしまう。
へらへらしていられない。
ぽんと頭を叩かれたと思えば、クラスメイトがそばでニヤニヤ笑っていた。
「どーせ高岩のことだから、この前の女の子のことでも考えてたんじゃねーの?」
「また根も葉もない噂信じて、お前何やってんだよ!」
「まぁ、高岩のことだから、頭の中はバスケットか女の子しかなさそうだよねー」
「ちょっと、までそんなふうに思ってんの??」
嘘だとは言い切れない。
俺の頭の中は、バスケットとのことだけ。
どんなに努力しても、のことは忘れられない。
他の女の子に向かおうとしても、全然進めないんだ。
「こまった奴だな」と自分のことを鼻で笑って、俺はしっかり掃除当番を努めることにした。
マネージャーというのは、一緒にいる時間が長くて、いろんなものを一緒に乗り越える仲間だ。
だから、ただの仲間以上の感情を抱いてもおかしくはない。
それは俺だけじゃなくて、他の仲間も同じ。にとっても同じ。
俺は、の気持ちが俺ではないどこかへ行くのを、黙って見ていた。
気づいたら、隣に男を連れているばかり見ていた。
それでも、男といるときと同じように笑顔を見せてくれるから惹かれている。
俺には、きっとできないことだから。尊敬している。
体育館への道を、と並んで歩く。
肩も、手も、触れない。
の笑顔に癒される。
「でもさー、高岩は彼女ほしくないの?女の子追いかけてるのは、彼女ほしいからじゃないの?」
「んー、ほしいけど、いろいろ考えてみたらいらないかなーって」
「なんで?彼女いたら優しくしてくれて癒されるよ、きっと」
「癒してもらうだけじゃ、成り立たないからな。
俺が何をできるか考えてみれば、何にもないからムリってこと」
「いろいろ考えてるんだね、実は」
普段はへらへらしているけれど、考えることは考えている。
考えがうまくまとまらないことも多いけれど、俺なりに努力している。
俺の立場で、少しでもが幸せになれるように努力しているつもりだ。
彼氏でなくても、接する時間はいくらでもあるのだから。
は賢いから、俺の気持ちはわかっているだろう。
それでも黙っていて接してくれるのは、俺に遠慮しているからなのか、本来の持ち味なのか。
本音はわからないけれど、ありがたい気持ちだ。
「おーい、高岩。これで餌付けだっ」
訳のわからない声がして、遠くから何かの箱が投げられた。
俺は手を伸ばしてキャッチ。
箱を見れば、お菓子の箱。
投げた相手は部活仲間。別のステータスをつけるならば、の彼氏。
「餌付けとか、ヒドイ!」と憤慨しながら言うだけれど、どこか嬉しそうにしている。
俺は箱を開けて、中のクッキーを1つつまむ。
隣にいるの顔を見て、ニーっと笑った。
「さあ、ポチ。ごはんだよー」
「誰がポチよっ。ひどーい、高岩までそんなことするなんて」
「冗談だよ、ポチ。はい」
俺はクッキーをの手のひらに載せた。
嬉しそうに食べるは、まるで餌付けされた犬のよう。
あいつが言ったことは、冗談じゃなかったんだな。
誰とでも対等に、同じようになんて接することはできないけれど、少しでも努力して近づけたらいいな。
クッキーを1枚頬張りながら、そう思った。
この恋、実らなくとも、成長できれば新しい恋に出会えるから。
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ポチじゃなくてハチにすればよかったかなと思った(NANAより)
「やめられない」=「かっぱえびせん」
単純な私の頭。
かっぱえびせんはおいしいよ。