[ リ ピ ー ト ]





「つかれたー」
叫んだ私は、椅子の上に横になる。
生徒会室の椅子を3つ並べれば、そこは少し硬いベッドだ。
目を閉じれば、真っ暗な世界で覚司が笑っていた。
覚司と話したのはいつのこと?
そういえば、覚司からのメールに返事をしていない。
疲れたからまた後で、それを何度繰り返したことだろう。
机の上に置いた携帯電話を掴み、とにかく生きていることを知らせようとメールを打つ。

「ごめん、疲れてるからまた今度」
なんて可愛げのないメールだろう。
絵文字を使う気力も無い。
送信できたことを確認して、私は眠った。

目が覚めて、椅子の上で眠ったことを思い出す。
落ちないように気をつけて身体を起こした。
壁の掛け時計が6時を指していた。
慌ててパソコンに向かう。
明日の会議の資料が全くできていない。
早く終わらせようとしても頭が働かない。
眠気に負けて眠ったけれど、頭が働かないのなら意味がない。
うんざりして窓の外を見た。
冬に比べれば、日が長くなった。
薄暗くなる空を見ながら、自分の仕事の遅さを呪った。

「こんばんはー」とのん気な声が聞こえた。
生徒会室の入り口には、覚司が立っていた。
驚いて声も出なかった。
そんな私を見て、覚司は笑う。





「忙しい?」

「うん、後回しにしてたら、明日の会議の資料が全くできてなくて」

「そりゃ大変。サンは仕事が遅いからねー」

「もうほんと、その通り。・・・ゴメンね、メールもできなくて」

「顔見たら疲れてるのが丸わかりでさ、怒る気もなくなった。
 ごめんな、俺こそのことわかってやんなくて」





珍しく、バスケット以外の時間に真面目な顔をする覚司。
私は驚いて覚司を凝視した。
私といるときは、へらへら笑っていることが多いのに。
「手は動かさないと終わらないよ」と言って、覚司は私が並べたベッド代わりの椅子に寝転がった。
この人は、私の仕事が終わるまで待つ気なんだ。
部活が終わって疲れているのにも関わらず。
苦しくなる胸を押さえて、私は深呼吸をする。
気合を入れて、仕事は終わらそう。
待ってくれている人のために、自分のために、明日のために。

疲れて重くなるまぶたを開く。
カタカタとキーボードを叩く音がする。
ディスプレイに文字が表示される。
静かな時間が過ぎていく。

原稿を完成させたら、あとは印刷するだけ。
印刷機に原稿をセットし、40部印刷した。
印刷機の無機質な音。
規則正しい音に、私は耳を奪われた。
疲れていると、何もかもがまぶしく見えるんだ。
覚司のかばんが床に放置され、本人の姿は見えなかった。

「ただいまー。終わった?」
覚司の声が入り口から聞こえた。
手には紙パックのジュースが2つ。
覚司はそのうちの1つを私に向けて投げる。
うまくキャッチできた私。
「ありがとう」と言えば、覚司は笑ってくれる。
印刷が終われば、仕事はおしまい。
荷物を整理して、生徒会室を出た。

甘いジュースに身体はしびれる。
夜の道を並んで歩いた。
空いた手で、覚司と手を繋ぐ。





「最近、と会ってなかったろ?
 だから、たまには会いたいなーって、わがまま聞いてもらいたいって思ってた。
 けどさ、会ったらこれだもんな。俺って意思が弱い?」

「そんなことないよ。っていうか、私にわがままきいてもらうなんて覚司らしくない・・・。
 あ!・・・ごめんなさい。覚司も疲れてるんだよね」

「そんなことないさ。今日、に会えたからもういいよ」

「そうだね。ちゃんと思いやりを持たないとダメだね。まだまだお子ちゃまなんだ、私」

「俺もだからなぁ、2人そろって成長するか」

「うん!」





疲れた。
癒された。
元気になった。
誰かを思いやる余裕ができた。
それを繰り返すだけ。









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だってしんどいもん、何も考えたくないよ(笑)
そんなときに身にしみる、母の愛です。
元気なときは、いろんなものが見えると思います。
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