[ マシュマロンの白い目から ]





小さな公園のブランコを揺らす。 はマシュマロを食べている。 何も言わずに、は俺にマシュマロをひとつ手渡す。 口に入れると溶けるマシュマロ。苺の味がする。

「ありがとう」と突然が呟く。 「何が?」と尋ねれば、「今日、付き合ってくれて」と返事が届いた。 部活を終えて、夜の公園を訪れた。 まだ寒い。春は本当にそこまで来ているのか? 寒い、とても寒い。 の心は凍えそうなくらい寒いんだ。隣にいてよくわかる。 そっと伺ったの顔。口は固く結ばれ、ゆがんでいた。涙が頬を伝っているのがわかった。 どうしたものかと考えて、その頬に手を伸ばした。 涙をすくってやると、は身体をこわばらせた。すぐに、緊張は解けてくれたけれど。

「ご、ごめんなさい」
「謝ることないさ。俺が振られたら、そんときはなぐさめて」
「うん、がんばる」

そういう返事がほしいわけじゃないんだけどな。 そう思いながら、今はをなぐさめることに集中する。
ホワイトデーにマシュマロ渡して別れようって、なんだよ、あいつ。 やる気あるのか? あぁ、ないから別れたんだ。ちゃんと、バレンタインのお返しをして、プラスマイナスゼロで清算して。 涙を流せるほど好きだったんだ、は。 俺は、振られて涙を流せるか。それほどにのことを想っているか。
わからないよ、わからない。
涙が想いに比例している? そんなわけない。
けれど、の想いが痛い位にわかるから、俺の心はどう進めばいいか迷ってしまう。 はまだあいつのことが好きだ。俺は、ずっとのことが好きだ。 一方通行のベクトル。
「振られたからなぐさめて」そんなメールをもらったのは今日の昼休み。 部活が終わるまで、はどんな気持ちでいた? 部活が終わるまで、俺は集中できなかった。 今も、をなぐさめることに集中できていない。

「あたしね、彼のこと好きだったよ」
「わかってる」
「でも、どこかですれ違ってたんだよね」
「そうだな」
「すれ違いがない人間なんていないよね。人間は所詮他人という生き物なんだもん。しかたないよね」

すれ違わないように努力するんだ。
それでもうまくいかないから、別れるんだ。
想いがあっても、想いを繋ぐことができなければ意味がない。
俺は、と想いを繋げることができるだろうか。
そんな自信はないよ。
のことだけを考えて生きられるほど、単純じゃないから。

の頭をなでてやる。
涙でぬれた顔のまま、は笑う。

次の恋に向かって走れよ。
俺のこと、好きになれよ。
ずっと笑っていろよ。

そんなこと、言えるわけがない。
言えないから、こうしての頭をなでているのだ。
俺のことを好きになってほしい、そう願うのは当たり前のこと。
けれど、今はに笑ってほしいから。
涙は見せないでほしい。
ただ笑って、いつものように幸せの笑みを見せてほしい。

は最後のマシュマロを俺に渡す。
「最後のだろ?」と言えば、「最後だから覚司に食べてほしいの」というの返事。
それはなぜ?

「残り物には福がある、って言うしね」
「だったら、なおさらが食べた方が・・・」
「いいの!こうして付きあわせているお礼だよ」

口ではそう言っているものの、おそらく振られた相手からのプレゼントをあまり食べたくはないのだろう。 察した俺は、ありがたくいただいた。 甘い甘い苺の味。 溶けて消えていくマシュマロ。それでも口に残る、甘い味。

「ごめんね」意味ありげな言い方。
「わかってるんだけどね」何を?何をわかっている。
申し訳なさそうな表情で俺を見る
もしかして・・・見抜かれている?
少し笑っては爆弾を落とす。

「ごめんね、覚司のこと好きにならなくてごめんね。でも、覚司のこと好きになれたらどんなに幸せだろうって思った。 優しいことは、私が誰より近くで見てきたから知ってる」
「気づいてたんだな」
「うん、なんとなく、そんな気がしてたし、噂で聞いたこともあるし」
「知ってて、なぐさめ役を俺にしたのは?」
「好きになれたらどんなに幸せだろうって思ったから。なぐさめてもらったら、好きになれるかもしれないって。……ごめんね、幻滅した?」

むしろ、そんなふうに思ってもらえて俺は幸せだ。
好きになってくれるのは大歓迎。
嫌いな相手なら、好きになる可能性だってゼロなんだ。
首を振って否定すれば、は苦笑する。
ブランコから離れたは、俺の目を見る。
「もう、帰ろ!」笑ってみせるは、少し強がっているようだったけれど、少しは立ち直れたからこう言えるのだ。
頷いて、俺もブランコから離れる。

主を失ったブランコが、むなしく揺れていた。




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いつのまにかこんな幼馴染の話になってしまった・・・。
苺のマシュマロはおいしかった☆


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