[ have fun ]
「さーとーるーくん!!」
俺の名を呼ぶ声がする。
振り返ると、スーツ姿のさんがいた。
学校の校門の前、友達と待ち合わせをしているのに全く来る気配が感じられずいらだっていた。
そこに現れたのは天使のような笑顔のさん。
癒される。
「帰り?」
「はい、友達待ってるんスけど、来ない・・・」
「じゃあそれまで付き合うよ」
さんは俺の隣に並ぶ。
昨日会ったばかりだけれど、もう何日も会っていないように感じる。
時間の流れなんてそんなものだ。
自分の思い込みでいろんな長さに感じる。
そんなことを話すと、さんも同意してくれた。
「いやなことは長く感じる。好きなことは短く感じる。だから、覚司くんといる時間はあっという間」
笑顔をもらって、俺は嬉しかった。
好きでやっている部活だけれど、疲れるときもある。
そんなときに、さんの笑顔を見ると癒されるんだ。
さんは、今日のお昼に先輩がおごってくれたらしく、その時のごちそうの話を楽しそうにしている。
食べ物の話をするさんは幸せそうだ。
それを見ているだけで、こちらまで幸せになれるから。
「今度一緒に食べに行こーね」と笑顔で言われたら、断れないし、元々断るつもりもない。
デートの約束をしても、実際行けるかどうかはさっぱりわからないのだけれど。
また、俺のオフとさんのオフが重なればいいなと思った。
「ごめん、先生につかまった」と友達の声が聞こえた。
目の前に友達が立っていて、さんを不思議そうに見ている。
何と言おうか考えている間に、さんは「じゃあね」と言って去っていく。
引き止めることもできず、俺は呆然とさんの後姿を見送った。
「誰?」友達の質問。
「彼女」俺の回答。
友達は驚いていたけれど、しつこくさんのことを尋ねたりはしない。
一体、俺は何を躊躇した?
からかわれると思ったからじゃない。
自信がなかったから。
さんの彼氏ですと大声で言えない。
どうしてだろう。
さんのことは大好きなのに。
「高岩さ、自信持てよ」
「は?」
「おまえがモテることは知ってるけど、彼女いるのは聞いてない」
「ごめん」
「でもな、二人で話している姿見てたけど、彼女さん楽しそうに笑ってたぜ。おまえも楽しそうだったし。
二人が時間を共有して、しかもその時間を楽しめるんなら、他には何にもいらねーと思うんだけどな、俺は」
指摘されてやっとわかった。
俺の気持ちだけあってもしかたない。
俺とさんの気持ちがあって、二人が同じように思っていればいいってこと。
俺はさんじゃないから、さんの気持ちはわからないけれど、
第三者が見て二人とも楽しんでいるように見えるのなら、きっと二人はそう思っているはず。
ふたりとも、楽しいと、思っているはず。
さんには後でメールしよう。
お別れのあいさつをしなかったから。
おやすみメールをして、眠りにつこう。
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居酒屋パニックで想いを確固たるものにしたのはヒロインさんだけなんで。
こんな感じで。
ときどき、自信が持てなくなることもあると思う。