[ 居 酒 屋 パ ニ ッ ク ]





「そういえばさぁ、さんて彼氏いるの?」

「え?・・・・んあぁ、まぁ」

「やっぱいるんじゃん」





会社の同期の飲み会。
男10人女3人のへんてこグループ。
みんな20代前半だから、飲み会の席での話題は恋人のこと。
「いるよ」と大声で胸を張っていえないのは、カレが年下だから?
しかも高校生、未成年。
冗談で「未成年襲っちゃ犯罪よねー」と言い合う人たちもいるけれど、私にとってみればシャレにならない。
6つ年下。17と23。
大学生ならまだいいとして、高校生。
「彼氏がいる」と言ってしまった以上、これ以上詮索されないよう防御をどうとるか考えてしまう。

予想通り「どんな人?何やってる人?」と質問攻めになる。
苦笑いでは切り抜けられない。
酒の勢いで場を仕切りだす人まで現れて、ひとつひとつ質問に答えるよう強く言われる。
どうしたものか。





「はい、んじゃぁ、名前はなーに?」

「名前っ?個人情報でしょ、それ」

「いいじゃん、いいじゃん、さんの彼氏は何くんですかぁ?」





完全に酔っ払っている。
仕切り役の凛子さんは、私の隣にやってきて肩をバシバシ叩くのだ。
右手にはきっちり梅酒の入ったグラスを握っている。
もちろん、梅酒はロックだ。彼女は水割りもお湯割りもソーダ割りも飲まない。
私は諦めてボソボソと声を出す。「さとるくんです」と。
私の返事があったことに気を良くした凛子さんは矢継ぎ早に質問を投げかける。





「サトルくんの年齢は?職業は?趣味は?主なデートスポットは?月に何度くらい会うの?」

「そんなことどうでもいいでしょ!ってか凛子さん酔っ払ってま・・・」

「酔ってません!酔ってたらこんな矢継ぎ早に質問できませんよー」





思い出した。凛子さんは酒を飲むと異常なほど強気になるのだ。
アルコールの力とはすばらしい。
内に秘めたる力を引き出してくれるのだから。
凛子さんの顔はいつもと同じ。酔って赤くなる気配が全くない。
顔は笑っているのに、目は笑っていない。
本気だ。
本気で私の全部を暴き出そうとしている目だ。
答えられずにいると、向かいに座っている鳥田くんが助け舟を出してくれた。
「まあまあ凛子さん。さんに彼氏いるってわかっただけでもよかったんでしょ?次は他の人にいるか聞こうよ」
少しだけほっとしたのも束の間、凛子さんはドンとテーブルを強く叩いて鳥田くんに顔を近づける。





「ダメ。絶対ダメ。さんの彼氏だよ?絶対イケメンかっこいいに決まってんじゃん。
 そしたら友達紹介してもらって、私にもイケメンの彼氏ができるってわけよ」

「あぁ、そりゃ凛子さん彼氏いないよね。当然か」

「なによっ、凛子さんは彼氏いないんですよー、わるかったわね!」





愉快な人たちだ。
そして、凛子さんが私を追及する理由がわかった以上、余計答えづらい。
確かに覚司くんの友達は、世間一般で言うイケメンが多い。
けれど高校生。未成年。
それをどう受け止めてくれるか・・・。

あまりにもうるさいので「年下だから」と答えると、凛子さんはさらに食いついてきた。
年下好みらしい。
しかも
「私、下は高校生までオーケーだよん。前の彼氏、付き合ってたとき高3だったの。今は大学生だけど」
とおっしゃるのだ。
洞察力の鋭い鳥田くんは私を見てこう言う。
「もしかして、彼氏さんは高校生?」
一瞬、場が凍りついたかのように静まり返った。
そして、凛子さんが目を輝かして私の手を握るのだ。





「ほんと?高校生なの?」

「あ・・・・・・うん、高校2年生」

「ほんとほんと?ほんとに?ぜひ友達紹介してしてして」

「あ、や、それは・・・わかんないけど、聞いてみる」





凛子さんは梅酒を飲み、通りがかった店員さんを呼びとめ酒のオーダーをする。
笑顔の凛子さんは、私の隣で「やったやった」と繰り返し呟いていた。
再び、洞察力の鋭い鳥田くんに、私は攻められる。





「高校生だから渋ってたんだね、言うの」

「う、うん」

「それじゃ、サトルくんがかわいそう。
 高校生であるが故にさんの恋人としてふさわしくないように思い込むよ。
 彼女の動揺は、きっと彼氏に伝わるから」

「え?あ・・・そうかも」





そういえば、一緒にいて笑ったり楽しい時間を過ごしたりしているのに、
時々遠くを見て悲しそうな表情を見せるのだ、覚司くんは。
それは、不安を形に表していたんだと。
今更気づいてどうするんだ、私は。
時々、私なんかより、もっと若くて、・・・・・・23歳なんて若いの分類に入るけれど、
もっと若い10代の子たちが周りにたくさんいるのに、覚司くんは私を選んだ。
好きだったら、年齢も性別も環境も、何も関係ない。
「好き」という想いがあるだけで十分なんだ。
それなのに、私は恋人という特別な存在がいるにも関わらず、周りに自信を持ってその存在を公言できなかった。

情けない。
そんな行動をとるから、覚司くんを不安にさせていたんだ。
悔しい。
大人になってもそんな馬鹿なことをしていたなんて。
少しだけ、涙がこぼれた。
そんな私の頭をなでてくれた手は、いつも私に温もりをくれる覚司くんの手のような気がした。
隣を見ると、そこには覚司くんがいて、私は驚き大声を出してしまう。





「え―――――!!!!!!覚司くん!!!!!!」

「しー。大声出しすぎですよ、さん」

「え、だって、だって」





私は軽くパニック状態に陥っている。
どうしてここに覚司くんがいる?
どうして周りのみんなは知らない人がいても平然としていられる?
オロオロしていると、覚司くんがいつもの優しい声で話してくれる。
「偶然同じ店で家族そろって夕食をとってたんです。
 そしたらさんの声が聞こえたんで、端に座っている人に頼んで混ぜてもらいましたー」
ついさっき鳥田くんと話していたことは全部隣で聞かれていた。
頭が真っ白になる。
涙が通った跡は、顔にしっかりと残っているだろう。
覚司くんの腕が、私の身体に回される。
そして、顔を寄せて私にささやく。





「俺が高校生ってことは、お互いネックだったんですね。
 でも、俺はさんが好きです。だから、大切にしたい」

想われっぱなしじゃだめだ。
私も主張しなくちゃ。

「覚司くんが高校生でも、大学生でも、社会人でも、私は覚司くんが好きだよ」





それだけ。
必要なのは「好き」という想いだけ。

なんだかいい雰囲気。
けれど、凛子さんがぶち壊すことは全員予想済み。
覚司くんは凛子さんに友達を紹介しろと頼まれていた。
凛子さんの形相に、わりと強気な覚司くんも顔がひきつって苦笑いになっていた。

そんな居酒屋パニック。









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もうすぐ飲み会飲み会(笑)
凛子さんのイメージはマイフレンドです。
軽いノリの話が書きたいんです。
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