[ バ ウ ン ド ボ ー ル ]





わからなければ、何事もなく鉄朗と付き合ってたんだと思う。
わかってしまって、私はどうしようかと悩んだ。
本当は、鉄朗が好きなんじゃなくて、鉄朗の近くにいた高岩のことが好きなんだって。
でもどうしようもない。
ただ、流されるまま鉄朗と付き合っている。

私の気持ちより、私と鉄朗が丸く収まっていることのほうが大切だった。
どうしてだろうね、自分の気持ちほど大切なものはないのに。
けれど、丸く収まってなんかいなかった。
無理矢理押し込められていたんだ。
だって、鉄朗にも好きな人がいるのだから。
私達、両想いなんかじゃない。
けれど、押し込められたまま球の中から出ようとしないんだ。

私が、先に出たら鉄朗も出てくれるかな、このボールの中から。

そんなことを思いながら、私は高岩に背を向けて帰ってきた。
涙で濡れた頬は乾いてパリパリしている。
進む道は暗い。
街灯の明かりはたいして役に立たない。
両想いなのに、一緒になれないのはどうして?
もちろん、誰も幸せになれないのに丸く収まっていることを選んだ私のせいだ。
また涙があふれてくる。
ぐっとがまんして、私は家路を急いだ。

家の前、近所に住んでいるけどよく知らない女の人が、恋人と思われる人と話し込んでいた。
キっとにらんで私は家の中に入る。
多分、ふたりは私がにらんだことに気づいていない。
にらんだけれど、後に残るのはむなしさだけ。
淋しさに耐えかねる。

そして、悩みながらもまた声をかけるんだ。
「おはよう」って。
高岩は、いつもどおり「おはよう」と言わなかった。
当たり前だ、声の質も、表情も、今まで見たことがないもので、非常に不自然だった。
多分、私の声の質も表情も、不自然だ。





「ごめん、昨日は。のこと、おもいっきり困らせてさ・・・」

「や、ううん、そんなことないよ。私のほうこそ、迷惑極まりないよね。・・・ほんと、ダメなの」

「空回りの女王だもんなー、は」

「そうねー。そういう高岩も、運がないときはとことんないよね、アンラッキーキングダム?」

「王様じゃなくて国?」





不自然なら、不自然なりにうまくいく。
そう感じた。
いつか、この不自然も自然に変わる。
そう思えた。
苦笑いもいつか笑顔になるんだ。
不自然なまま、歩いていく。
うまく寄り添えなくていいんだ。
うまく人を好きになれない私のせいだから。

けれど、本当は不自然だから、どこかに疲れが溜まると思う。
いつの間にか疲れて、けれど原因がわからない。
そんなことになると思う。
けれど、それも仕方ない。
うまく人を好きになれない私のせいだから。

いつかうまく笑えるようになる。
いつか幸せになれる。
だから、その日まで丸く収まらなくていいから、ちゃんと前を向いて歩こうって決めた。

だから?
だから、うまく理解できなかった。鉄朗の言葉が。
寒空の帰り道。隣にいる鉄朗のまじめな顔。





「別れるか」

「へ?」

「互いに好きな奴いんのに、付き合ってても意味ねぇんだえ」

「うん」

「あっさりしすぎだえ、あんだけ悩んでたくせに」

「それはお互い様!このまま付き合ってたほうが丸く収まっていいと思ってたくせに」





お互い、笑っていた。
苦笑いなんかじゃない。
ちゃんと、笑っていた。
ぽんと、私の頭を軽くたたいて歩いていく鉄朗。
私はその背中を見送った。
私も、第一歩を踏み出そう。
歩き始めた。

明日はちゃんといえると思うんだ。
「おはよう」プラス笑顔のあいさつ。
そうしたら、高岩も笑ってくれるかな?
不自然じゃなくて、ちゃんと笑ってくれるよね。









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私は当分丸く収まらなくていいです。ハイ。
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