[ マ フ ラ ー ]





おかしい。
どう考えても俺はマフラーをかばんの外に出した覚えはない。
じゃぁ、なぜ俺のマフラーがないのか。
眉間にしわを寄せて考えるけれど、答えは出ない。

部活を終えて部室で着替えた。
さぁ帰ろうと思い、マフラーを探すが見当たらない。
誰も俺のマフラーを見かけなかったと言う。
心当たりが見つからない・・・。

ついさっき、と言っても10分くらい前に部室を出て行った成瀬が戻ってきた。
マフラーをしていたから家に帰ったと思っていたけれど、違ったらしい。
そして、そのマフラーが成瀬の首にかかっていない。
これはどういうことだ?
マフラー泥棒か?
けれど、部室にいる他の部員のマフラーはあるのだから、不思議だ。



「あれ、成瀬、マフラーは?」
「眠り姫にとられた。お前のこと待ってたぞ、教室で」
「眠り姫?姫??帰るって言ってたのにな」
「さぁ」



成瀬は、明日マフラー返してと伝えてくれとだけ言い残して再び部室を去った。
どうやら、忘れ物をして教室に行ったら眠り姫がいて、姫は寒いのでマフラーを貸してくれと言ったらしい。
あと、俺に早く来いと思っているはずだ。
やれやれ、と俺は肩をすくめて教室に向かう。
眠り姫は教室の真ん中の席で自分のマフラーをまくらにし、成瀬のマフラーを首に巻いていた。
ひざかけとジャージを背中にかぶり、下のジャージはスカートの下にはいているという、奇妙な出で立ち。
よく見ると、俺のマフラーがのひざ掛けの上に置いてあった。
どれだけ防寒対策しているのだろう?
俺は姫からひざ掛けとジャージ、マフラーをはがしていく。
冷気が吹き込んで、が起き上がる。



「さむいー、覚司のバカ」
「何、ぬくぬく寝てんだよ。帰んないの?」
「そだねー、帰る」



はスカートの下にはいていたジャージを脱ぐ。
はそのまま帰ろうとしたけれど、俺が「みっともない」と言ったから嫌そうな顔をしつつ脱ぎ始めたのだ。
「すかすか」とはぼそっと呟き、ひざ掛けとジャージをかばんの中にしまう。
成瀬のマフラーを首に巻いたまま、その外側にさらに自分のマフラーを巻きつけて、首周りをぐるぐるにする。
そして、俺の手をとって、俺にマフラーを差し出し、「帰ろ?」と首をかしげて笑うのだ。
この笑顔が好きなんだなぁと改めて思った。
冷えてしまったの手と、部活でずっと動き続けていてぬくもった俺の手。
熱平衡の法則にのっとり、俺の手の熱がの手へ移動する。
俺の手の細胞はエネルギーを失って運動を抑えていく。
化学で習ったことを思い出しながら、無言で俺たちは手を繋いで階段を下りていた。

何かひっかかることがあって、それが何だかわからなかった。
うーんとうなり声をあげながら考える。
は呆れた顔で俺を見ていた。

を見ていて何かがひっかかる。
顔?違う。制服?違う。かばん?違う。
だったら何が違う?
首周りがぐるんぐるんの?そうだ、それだ。
違和感が大だ。でも、それもなんとなく違う。
だったらなんだ?
あ、と俺が物理的なひっかかり気づいたときには、その奥にただの嫉妬があるとわかった。
成瀬のマフラーを首に巻いているのが気に入らなかった。



「あー、ただの嫉妬。でもが成瀬のマフラーしてるってのは気に入らない」
「え、成瀬くんのマフラーしたらいけないの?」
「俺以外の男のもの身に着けてるってのは、彼氏として気に入らない。ひっじょーに気に入りませんね」



はくすくす笑っていて、マフラーをとる気配がない。
俺はムッとしての首に巻いてある2本のマフラーを取り除く。
もちろん、はそれを阻止しようとするけれど、男の俺が女のに力で負けるわけがない。
あっさりの首からはマフラーが取り払われた。
は「さーむーいー」とブーブー文句を言っている。
代わりに俺のマフラーをの首にかけてやる。
はきょとんとしていた。
俺はの首に俺のマフラーを巻きつけて、その外側にのマフラーをかけてやる。
俺は成瀬のマフラーをする。



「別に成瀬くんのマフラーしたって死なないけど・・・」
「それでも、俺のじゃないマフラー、しかも男のマフラーしてるのは気に入らないってこと。わかった?」
「・・・わかった。ありがとう」



ニコニコしたの顔を見て安心した。
は俺のことが好きだ。わかっているけれど、時々無性に不安になる。
けれどの笑顔は俺の嫌なことを全部忘れさせてくれる。
明日は俺が成瀬のマフラーを返さなくちゃなと思いながら、俺たちは学校を後にした。

明日も冷え込むだろう。
部活は休みだ。
ロングマフラーでも買って、1本のマフラーを俺との首にぐるぐる巻きつけてデートでもしようか。



















 *おまけ





成瀬ー、昨日はありがとな、マフラー。

どうして高岩が返すんだ?に貸したはず・・・。

俺が成瀬のマフラーして帰ったから・・・・・・ス、スンマセン、ちょっと待てって!

俺はお前に貸したんじゃない。が寒いって言ったから貸したんだ。
誰も男にマフラーしてほしくて貸したんじゃないからな、殺人光線くらい受けてもらわなきゃ俺が困る。

あー、もう、ほんとスンマセンってば。どうぞ遠慮なくにマフラー貸してあげてください。
お願いします、お願い、お願い。










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ダーリンのマフラーをかっぱらったヒロイン。
嫉妬する覚司くん。
殺人光線をとばす成瀬。
が書きたかっただけです。
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