[ 今 日 は 一 日 オ フ ]





多分、普通のカップルなら危機的状況だと思う。
メール、しない。
電話、しない。
学校で、会わない。
デート、行かない、というか行けない。
かれこれ1ヶ月以上この生活を続けている。
付き合いだして数ヶ月ならこのまま自然消滅するだろうけど、俺達はもう2年以上の付き合いだからそういうふうにならない。
会いたくないわけじゃない。
でも、胸が締め付けられるほどに会いたいとは思わない。
違うな、思えない。忙しすぎて、そう思えないのだ。

俺もも、部活で忙しくて、休みになれば一日中家で寝て過ごす。
テスト前は休みがたくさんあっても家で一人で勉強する。
「一緒に勉強すれば?」と周りによく言われるけれど、一人のほうが集中しやすいから勉強できる。
お互い誘えば会うのだと思うけれど、誘うのも面倒だ。
なんて、おかしなカップルだろう。自分でもそう思う。

大会も終わり、テストも終わり、いつもの練習の日々が始まった。
今日は高校受験の日で、生徒は全員校内に入れてもらえない。
たまにはとデートと思ったけれど、誘うのも面倒なのでやめておいた。
とりあえず、寝る。それだけ。
父親は仕事、母親はパートに出かけ、家には誰もいない。
ベッドの上でごろごろ転がっているとウトウトしてきて、結局眠ってしまった。
その後、気がつけば時計は11時半をさしていて、そろそろ昼ごはんの時間だなと思うわけである。
寝間着姿のまま洗面所で顔を洗い、歯を磨く。
めずらしく家の呼び鈴が鳴った。
「はいはーい」と返事しながら玄関の扉を開くと、が立っていた。
「おいっす」と手をあげてあいさつするものだから、色気もありゃしない。
まぁ、寝間着のままの俺が言うことではないだろうけど。

が持ってきた紙袋の中には木目がプリントされた紙の箱が二つ。
「どうせコンビニ弁当とカップラーメンで昼ごはんをすまそうとしてるのはわかってたから」という
開ける許可をもらって開けてみると、中にはおかずとごはんが詰まった、これはお弁当。
きれいに巻かれた卵焼き、肉じゃが、焼き鮭、ごはんは真っ白で梅干しとたくあんで彩られている。





「たまには彼女らしーとこ見せないとね。1ヶ月くらい会ってないし」

「マジ、これの手作り弁当?」

「焼き鮭だけ冷凍食品だけどね・・・他は全部朝から作ったよ。サンの手作り弁当、レアだよ〜」





俺は朝ごはんを食べていないから12時になるまえにその弁当をいただくことにした。
食器棚からグラスを二つとって、冷蔵庫で冷やしてある麦茶を注ぐ。
もったいないからが持ってきた割り箸は使わない。
母親の箸をに渡し、俺は自分の箸を使う。
家で弁当を食べるというのも変な話だけれど、の手作り弁当を家で食べるのだから意味は十分ある。

そういえば、の手作りの料理というものは食べたことが無かったなと。
手作りのお菓子を食べたことは何度かあるけれど、ごはんを作ってもらった記憶が無い。
のだからおいしく感じるのか、本当には料理がうまいのかなんてわからないけれど、
とてもおいしかった。

昼ごはんを食べ終えて、さてこれからどうしようか。
「どうする?」とに尋ねると、言いたくなさそうにボソボソと小さな声では言う。





「正直言って、眠い。寝たい、ゴロゴロしたい」

「色気の欠片もないよなー、は。でも、俺も同感。寝たい」

「友達にさぁ、休みならデートに行けばって言われたんだけど、眠気に勝るものなんてないよね。
 誘っておいて眠いから帰りたいとは言えないし。
 まぁお弁当でも作ってやって私の味でも覚えてもらおうか、みたいな。
 普通のカップルならありえないと思うけど、付き合うのが面倒なんだよね。でも好きだからしょうがないし」

「右に同じくー。休みだしデートにでも行こうかって思ったけど、誘うのも面倒だしな。
 せっかくのオフなんだから寝たいー。俺のベッドじゃ狭いけど、寝よーぜ。
 昼飯食ったら、超眠くなってきた・・・」





を抱き枕にして眠ると、とても心地よい。
陸上部のだから背は高いけれど、俺と比べたらまだまだ小さい方で、俺の腕の中にすっぽり納まってくれる。
二人そろって夢を見た。
夢の内容までは同じでないけれど、登場人物は同じ。俺と、二人が主人公。
夢の中でくらい、デートしたほうがいいよな。

目覚めると、は窓辺で誰かと通話している。
会話を聞いていると相手は部活仲間のようだった。
眠そうな顔で、「あぁそう」、「はいはい」と返事をしている
相手に、かなり失礼だと思うのは俺だけではないと思う。





「うん、眠い。っつかデート中なんだけど?・・・はいはーい、また明日ね」

「これでデート中?寝てるだけなのに?」

「うん、覚司と一緒にいることに意味があるの!出かけたらお金かかるし、こういうデートもいいんでなーい?」

「そうだよな、俺達にはこれがいちばんいいよな」

「睡眠は生理的欲求だよ。生理的欲求に勝てるものなんてないよ!」





はまた俺のベッドの中に潜り込み、「おやすみ、さとる」と言う。
首に腕がからめられ、唇がそっと触れ合う。
「うん、おやすみ」と言うと、はにっこり笑って俺の胸の中で再び眠りについた。









**************************************************

忙しいと何よりも睡眠時間が優先されて、他人のことにまで気がまわらないので。
男の子が「そんな余裕ないから」と言って女の子の告白を断ること、よくあるみたいだけど、
その気持ちが今、よくわかる。自分の毎日のことでいっぱいいっぱいなんだよね。
そういう者同士が付き合うとこんな感じかなと想像してみた。
inserted by FC2 system