【手を繋ぎたいよ】
成瀬くんと下校中、少し前の方を手を繋いだカップルが歩いている姿が見えた。私たちも恋人同士だから手を繋いで帰りたいなと思い「手を繋いでもいい?」と尋ねても、あっさり「駄目だ」と断られた。バスケット部のレギュラーだから人目は気になるだろうしダメもとだったけれど、断られると少し傷つく。
部活を引退したら制服手繋ぎデートもできるのかな、なんて考えてもみるがまだまだ先の話だし、その頃にはきっと受験勉強で忙しくなってデートどころではなくなっていそうだ。
好きな人とお付き合いできているだけでもありがたいと思わなくちゃ!
他愛もないことを話しながら葉山の坂を下る。何もないところで躓いて転びそうになったけれど、成瀬くんが手を引いてくれたおかげで顔面から地面にダイブするのは回避できた。
「ありがとう」
「危ないところだった」
体勢が整ったからもう手を繋がなくても大丈夫なのに、成瀬くんの手は私から離れたい。きょとんとして成瀬くんを見ると、手を繋いだまま前を真っすぐ見て歩き出した。手を繋ぐのは駄目じゃないの?
「ここは人がいないからな」
「いいの?」
「繋ぎたいって気持ちを無下にはできないし、たまには恋人らしいことをしたいと思う。これでいいのか、って疑問には思うが……」
「これでいいんだよ」
部活がお休みの成瀬くんが貴重な時間を私と一緒に帰ることに使ってくれて、手も繋いでくれて、もっともっとと欲張りたくなる気持ちがないと言ったら嘘になるけれど、今の私たちにはこのくらいが丁度いいのかもしれない。
「制服デートだね」
「ただの下校だろ?」
「成瀬くんがいたら私にとってはデートなんだよ」
嬉しくて笑うと、成瀬くんの表情も柔らかくなった気がした。
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テーマ 冬の下校中の制服デート。
成瀬くんは手を繋ぐのを人前では躊躇しそう。