シャープペンシルを物思いにふけっていて落としてしまった。転がって行き着く先は、隣の席の子の足元。白くて細い指が、シャープペンシルに触れる。
「はい」と微笑みながら俺にシャープペンシルを渡す、
「ありがとう」も言い忘れそうになる。それくらい、吸い込む力を持つ笑顔。
 さっきまで、ほんの少しだけが触れていたシャープペンシル。握る指に力がこもる。うまく字が書けない。震える指先が書いた文字は、奇妙な暗号のようだった。
 ため息がこぼれる。どうしてこんなに好きになったのだろう、と。後悔しているわけじゃないけれど、こんな感情を持ち合わせるのは初めてだから、どうしたらよいかわからない。ただ隣に座っているだけで、どうしてこんなに緊張するのだろう。バスケットの試合なんかよりも、ずっとずっと。こんなこと、高岩に知られたら揶揄われるに決まっている。

 指名されて黒板に解答を書く後姿も、掃除当番でほうきを持って歩いている姿も、友達と笑いながら弁当を食べる姿も、全部目で追っていた。ずっと見ていたら、目が合う事だってある。そんなときは、目を逸らしてしまう。
 何が怖い? 想いがばれるのが怖い? 伝わらなかったときが怖い?
 違う。想いを伝えたら、抜け殻になるような気がする。何もかも失ってしまうような。笑ってしまうくらい、怯えている自分がいる。から笑顔をもらうのは嬉しいのに。想いが通じ合えばどんなに嬉しいだろう。けれど、その過程に怯えている。一歩踏み出せれば、どれだけ楽になれるだろう。けれど、一歩も踏み出せないで、足踏みしているんだ。

 いつまで、足踏みしているのだろう。
 勇気が、足りない。





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アンケートで成瀬くん推しの方への捧げもの。すごく短くてすみません。 たまにはこういう成瀬くんもいいんじゃないってことで、書いてみたのだと思う。(13年前なのでうろ覚え……)

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