[ 好きかも、しれない ]





校内で受験する全国模試。
休日返上で受験。もちろん、部活も休む。
進学しない生徒は受験しないから、見慣れた顔がなかったりするけれど、気にはならない。
それは、うるさい奴が側にいるからだけれど。


「成瀬ー、数学どうだった?」
「この前、勉強したところがちょうど出たからな」
「ということは、カンペキってとこか。俺も成瀬に数学教わっておけばよかったなぁ」
「高岩には教えない」
「えー、ケチー」


先日のの真似をする高岩。顔をしかめて逸らせば、肩を回していると目が合った。
模試の席も隣だ。今年は本当に、隣の席になることが多い。


「成瀬くんに教えてもらったおかげでバッチリだった。本当にありがとう」
「いや、俺はただ一緒に教科書を見てただけだ。の実力だろ?」
「うん、私の基礎体力のおかげよね〜。次の化学もがんばるー」


はかばんの中からチロルチョコのバラエティーパックを取り出す。
いくつか取り出して包みを剥がして自分の口の中へ放り込んだ。
その後、こちらにパックをそのまま投げてよこす。
食べていいらしい。


「栄養補給、しよ? 疲れたら、甘いものだよ」
「ありがとう」
「俺も欲しい!」
「高岩くんもだよ、もちろん。でも食べ過ぎたら、お金とるからね」


高岩もそんなことはしないが、そういう風に釘を刺すというコミュニケーションが俺にはない。
俺が元来冷めた性分だからしょうがないとはいえ、少し違和感がある。
そういう関係になりたいわけでもない。
じゃあ、どうなりたい?

ミルク味のチョコを口に含み、次の化学の試験に備える。
甘いな、チョコレートは。
頭の中を溶かそう。は隣に座っているが、俺の頭の中に入ってこようとするから溶かしてしまえ。
次の化学に集中するんだ。
バスケットだけで進学するつもりはない。きちんと勉学にも励みたい。

定刻に教師が試験問題を持って教室へ入ってくる。
俺の机にべったり張り付いていた高岩もすぐに席へつく。
はチョコを口に運んでいる。食べながら化学に挑むらしい。
そういえば、化学が苦手だったな。苦手だから、好きなもので誤魔化しながらやるというのか。



「何?」
「チョコの匂いがする」
「ん、だよねー。食べながらはマズイよね・・・」


苦笑いしながら口を動かす
とはいえ、甘いものを口に含んで嬉しそうに笑う。
今、は俺を見て笑った。
俺に向けて笑った。
さっき追い出したはずなのに、頭の中にが入ってくる。
深呼吸をした。

だめだ。追い出せない。なぜだ?
の笑った顔が、頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消え。
頭を振って、斜め前の高岩の背中を見る。
前の席から試験問題を配られ、後ろを振り返って渡していた。
高岩と目が合う。
ウインクされた。
俺にか? それともにか?
ちらっと隣を見ると、は机の木目を指でなぞっていた。
さっきの高岩のことは忘れよう。

いざ試験問題と向き合うと、のことは気にならなくなった。
単純だな。向き合うものがあると、他のものは気にならなくなるらしい。

気になる理由は何だ?

好きかも、しれない?

ああ、そうだな。のこと、好きかもしれない。

元々好いてはいる。
ただ、それが、他と同じか、特別なのか、その違いだ。
多分、今は、同じと特別の間くらいだろう。

元素の周期表を思い浮かべながら、そんなことを思った。







From 確かに恋だった
微妙な距離のふたりに5題【2.好きかも、しれない】


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「好きかも、しれない」ってすごくいい言葉!
こういうの、好き。中途半端なの、好き!
そして、成瀬くん、そういうの似合いすぎ。

「登場人物がいつも勉強してますよね」って昔言われたことがあるのですが、
なんか、つい、勉強させちゃいます。勉強するのは好きだったので。

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