[ 隣同士がいちばん自然 ]





向き合うには抵抗がある。
隣り合えば距離は近くなる。
顔を見られなくていいのは安心する。
真正面から顔を見られたら、隠しようがない。

に表情を読まれるのが嫌だ。
理由なんて知らない。

カフェの四人がけのテーブル席。
奥にが座り、その向かい側に高岩が座る。
他の男子生徒が高岩の隣に座ったから、俺はの隣に座る。
男三人、女一人、よくこの組み合わせで放課後のカフェで勉強する。


「俺、もうダメ。今回は諦める。さんに学年トップの座は明け渡すよ〜」
「いやいや、この高岩様が奪い取るから!」
「諦めモードの人なんて眼中にありません。明け渡さずとも踏み潰す!」


一人は今回は諦めているが、学年上位を独占している俺たち四人はライバルでもあり仲間だ。
コーヒーを一口飲み、俺は数学の問題集を広げた。
数字と記号の羅列に吸い込まれる。
それでも、隣のの声はクリアに響く。


「今回の数学、辛い。難しくてついていけないの」
「教科書を最初から読んでみれば? 基礎がしっかりしてないから、解けないんだ」
「そうだよね。インフルエンザにかかって授業出られなかったあの一週間が悔やまれる!」


そういえば、を筆頭に俺以外の三人はインフルエンザにかかっていたな。
三人の視線が俺に集まって痛い。


「成瀬くんだけインフルエンザにかかっていなくてズルイ」
「そーだそーだ、ずるいぞ成瀬!」
「そーだそーだ、高岩ですらかかってんだぞ。お前もかかれ」
「どういう理屈だ」


はクラッカーを食べていて、まったく勉強していない。
高岩と友人は、英単語帳をにらみつけている。
学年中が驚くだろうな。学年上位の成績を納めている連中が、試験前に揃って勉強していると知ったら。
勉強していない約一名も、クラッカーを食べ終えればすぐに勉強しだすだろう。

そういえば、と隣り合うことが多い。
今のクラスでも隣の席だし、移動教室でも隣の席のことがある。今だって隣だ。

冷めたコーヒーを飲み干したところで、が「トイレ行ってくる」と席を離れる。
の姿を見送った高岩が一言。


「なんか、成瀬の横ってって感じだよな」
「?」
「よくわかんないけど、そういう感じ」
「曖昧で意味がわからない」
「いいよ、わかんなくて」


しばらくしてが俺の隣に戻った。
ふわっと甘くて爽やかな香りがする。
シャンプーの匂いだろうか。
そういうところは女子だなと思う。踏み潰す、とか言うけれど。


「成瀬くん、数学やるから教えて」
「ライバルを助ける奴がいるか」
「えー、ケチ。インフルエンザに絶対かからせてやる」
「どうやって?」


首をかしげてしばらく考え込み、俺の顔を覗き込んで「無理だね!」と言う
顔が近い。顔が火照る。
顔を逸らすと、隣でが小さく笑った。
綺麗な指が教科書をめくる。
の存在を意識すると、集中力が途切れた。

隣同士でも、顔を見たら駄目だな。








From 確かに恋だった
微妙な距離のふたりに5題【1.隣同士がいちばん自然】


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成瀬くんは需要があるのですが、私が書くの苦手なのですよ・・・
というわけで、苦手なりにお題使って5本書くことにしました。
苦手っていうか難しい。
今回のお題が難しかったので、「隣の席」をキーワードにしました。

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