[ 会いたいときは、同じ ]





唐突に会いたくなる。
でも、正直に「会いたい」なんて言えない。
言ったら、本当に会いにきてくれる人だもの。

高校時代は同じ高校だから毎日会えた。
話はせずとも、姿を見れるだけで安心できた。
大学は違うから、なかなか会えない。
休日も部活やアルバイトに時間を費やしている成瀬君と、アルバイトはしているけれど時間をもてあましている私。
すれ違うことが多くなった。
せめて、同じ大学に行けばよかったなと思ったけれど、成瀬くんと一緒にいたいからという理由だけで大学は選べなかった。
好きなことを学びたいから。

会いたい。
会って、顔を見て話をしたい。
電話が嫌いなわけじゃない。けれど、声が聞ければいいってもんじゃない。

欲張れば欲張るほど、忙しい相手にとって迷惑になるだけ。
溜息に、想いを乗せて。
携帯電話を握り締めたまま、ベッドの上で目を瞑った。

掌から伝わる振動に驚き、体が跳ねた。
一気に目が覚め、呼吸が荒くなる。
着信を知らせる振動が止まらない。
私は寝ぼけ眼のままで、通話ボタンを押した。
誰が電話を掛けてきたのかよく確かめないままに。



「もしもし」
『電話してきたのに、何にも話さなかっただろ』
「成瀬くん?」
「寝ぼけて電話したんだろうなって思ってさ。こっちから何度呼びかけても無反応だった。ちょうど声が聞きたいと思っていたのに」
「ごめんね」



電話帳の成瀬くんのページを開いたまま眠り、誤って電話を掛けてしまったようだ。
ひとまず謝ったものの、成瀬くんの言葉が消化しきれずおろおろしてしまう。
成瀬くんが、私の声を聞きたいって?
どういうこと?



『しばらく会ってないし、俺からメールの返事もできてなくて悪かった』
「そ、そんなことないよ。成瀬くんが忙しいのはわかってるし、バスケットは頑張ってほしいし」
『でも、俺も少しは休みたいし…にも会いたいし』
「あ、うん、ありがとう」



電話越しに聞こえる成瀬くんの声は、無機質のようでとても温かい。
さっきまで会いたいと思っていたのに、電話できただけで十分になってきた。
自然と微笑んでしまう。
部屋に置いた全身鏡に映った私の顔は、いい顔をしている。



『会いたい』
「うん、私も会いたい。なんか、成瀬くんが『会いたい』って言うなんて珍しいよね」
が俺に会いたいって思ったなら、俺もに会いたいって思ってる』
「そういうものかな」
『そういうもんさ』



たくさん話したいことがあるのに、何も口から出てこない。
声を聞いただけで満足してしまったようだ。



『これから、会える?今、部活終わったところなんだ』
「うん、会いたい!会って、たくさんお話ししたい!」
『俺も、の話が聞きたい』
「じゃあ横浜まで行くね」
『待ってる、



いつも苗字を呼ぶのに、突然名前を呼ばれて私は赤面する。
私も、名前で呼んだほうがいいのかな。
そんなことに悩みながら電車に乗って、彼に会いに行くのだ。









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成瀬くんに「会いたい」って言わせ隊!
成瀬くんは冷たいように見えるけどめちゃくちゃ温かい人だと信じてます。

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