[ 希 望 の 光 ]
「あ、雪だ」
隣を歩くの呟きに空を見上げた。
時刻は十九時。春に近づいてはいるものの、まだまだ寒い夜だった。
当分、春は訪れないのだろうな。
は俺の手を握った。
お互い、手袋をはめているから、素手と素手で繋がったときとは違う感触。
春が待ち遠しい。
吐く息は白かった。
の吐く息も、白かった。
明日には街が、雪で白く染まりそうな気がした。
勉強も、部活も、何もかも放り出せたらな。
こんな感情は、いらない。
でも、捨てられない。
どうして、こんなに、こんなに、
こんなにのことが好きなのだろう。
「全然春になる気がしないよね」
「そうだな」
「お花見デートとか行きたいなー」
「桜が咲いたらな」
「本当に行ってくれる???」
嬉しそうに目を輝かせて言う。
けれど、すぐに遠くを見て言う。
「土日に巧の部活が休みだったら、行きたいね」と。
当分、土日に休みがあると思えなかった。
春休みには合宿もある。
今日のように、お互いの部活が同じ時間に終わって一緒に帰れることも、稀だった。
学校で毎日顔を合わせていても、二人きりで深く話し合うことはなかった。
もう少し、時間がほしい。
と一緒にいられる時間を。
もう少し、余裕がほしい。
を構ってやる心の余裕を。
赤信号で立ち止まる。
繋いだ手を離した。
は不思議そうに俺を見る。
そんな彼女の肩を抱き寄せ、腕の中に閉じ込めた。
あまりに突然のことで、は声すら出さなかった。
周りに人はいない。
信号が青に変わったのが見えたから、を離した。
は何も言わず、また俺の手を握った。
「」
「・・・・・・」
「勉強も、部活も、放り出して、のこと・・・大事にしたい」
「そんなこと、私は望まない!!!」
「どうして・・・」
「巧がそう思っているだけで、私は嬉しいよ。だから、部活放り出すとか言わないで!」
そうだ、は怪我をして、バスケットをすることを諦めたんだ。
だから、俺がバスケットをしている姿を見ていると救われると言っていた。
の希望は、俺だから。
今にも泣き出しそうな顔のの手が、震えていた。
粉雪が、制服に載っては溶けて消えていった。
頷いたら、は大きく息を吐いた。
少し、安心したらしい。
誰かのためにバスケットをしているわけじゃない。
自分がやりたいから。ただそれだけ。
けれど、自分だけのものではなくなってくる。
チームメイトのため、恋人のため。
自分の周りにいる、すべての人のためになっている。
「一緒にいる時間が減っても、巧がバスケットに費やしてくれるなら十分だよ」
そんなふうに言ってくれる恋人でよかった。
けれど、それに甘えていたらいけないことくらいわかっている。
わかっている、つもりだ。
希望の光、見つけた。
隣を歩くの手を、強く握った。
絶対、離さない。
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ちょいシリアスで。
大事なものも、時々見えなくなる。