[ 手 繋 ぎ 夏 祭 り ]
人の多い場所は苦手だ。背の低い私は、いつもはぐれてしまう。
もう少し背が高ければよかったのに。
そうなれば、満員電車で人に埋もれることなんてなくなるのに。
夏祭り、浴衣のお姉様方、屋台のいい匂い。
私は夏が大好きだ。
白に花柄の浴衣を着て、私は友人と夏祭りにやってきた。
イチゴ味のかき氷は冷たくて、夏の暑さを吹き飛ばしてくれる。
ヨーヨー釣りがしたいという友人と歩いていたら、成瀬くんに会った。
「美濃輪なら金魚すくいしてた」と成瀬くんが言えば、友人は目の色を変えて走っていった。
私は成瀬くんと二人きり。
成瀬くんと目を合わせて笑った。
美濃輪くんのこととなると、彼女は周りが見えなくなる。
きっと私のことなんて、祭りから帰るまで思い出さないよ、きっと。
「高岩が輪投げしてるんだ。一緒に見に行く?」
成瀬くんに誘われて、私は大きく頷いた。
たこ焼きの屋台の行列に阻まれて、うまく前に進めない。
成瀬くんの姿が見えなくなる。
マズイ。
そのとき、手を引かれた。
少しバランスを崩したけれど、持ちなおして前に進めた。
「大丈夫か?」
手を引いてくれたのは成瀬くんだった。
離れそうになる私を捕まえてくれた。
「はぐれないように、手、繋いでたほうがいいか?は嫌か?しなくても大丈夫?」
「え、手?あ、ううん、成瀬くんが嫌じゃなければ引っ張っていってほしい」
「そう、か。なら…」
不思議だ。
成瀬くんと手を繋いでいる。恋人繋ぎじゃなくて普通に手を繋いでいるだけ。
こんなに幸せなことはないよ。
フワフワ浮かれていた。
あっという間に輪投げの場所に着いた。
高岩くんが必死になって特賞を獲ろうとしている。
バスケットよりも真剣なのでは?と思ってしまうくらいだ。
滑稽で成瀬くんと一緒に笑ってしまった。
結局高岩くんは「わたあめ無料券」ばかり当たったらしく、私たちにも分けてくれた。
三人でわたあめにかぶりつく。
祭り最大のイベント、打ち上げ花火が始まった。
お腹に響く花火の音。
きっと、大学生になったら離ればなれだ。いましかチャンスはない気がする。
何のチャンス?
成瀬くんに想いを伝えるチャンス。
言える?言えるのか?
俯いて手に力をいれる。
拳が揺れる。
そんな私に気が付くのは成瀬くん。
「大丈夫か?」と声を掛けてくれる。
見上げた成瀬くんのバックに、花火が輝く。
何も言えない。口が動かない。
頷くのが精一杯だった。
私は何もできない。
笑って誤魔化した。
これでいいんだ。
このままでいいんだ。
何も変わらなくていいんだ。
片想いのまま終わっていいんだ。
打ち上げ花火が終わった。
花火の後の静けさが好きだ。
祭りの会場から去っていく人たち。
ため息をついて去っていく高岩くん。
「特賞とれないし、俺の彼女はわたあめ嫌いだし風邪ひいて寝込んでるし、今日はついてないなー」
そんな高岩くんの呟きを、苦笑いしながら私と成瀬くんは聞いていた。
去り行く人の波に飲み込まれて、私たちも会場から離れていく。
出口へ押し寄せる人、人、人。
慣れない浴衣と下駄に、私の足は鈍くなる。
つまづいて転びかけて、手を伸ばす。
成瀬くんの腕を掴んでしまった。
「ご、ごめん。つまづいた」
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ごめんね、掴んだりしちゃって」
「って、意外と危なっかしくて放っておけないな」
少し、成瀬くんが微笑んだ気がした。
成瀬くんが私のことを放っておけないと思っているなんて、少し嬉しい。
少なくとも、興味ないとは思っていないのだから。
成瀬くんが手を差し出している。
私は笑顔でその手をとった。
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ちゅうとはんぱでスミマセンm(_ _)m
浴衣のお姉さんと手を繋いで歩く男の人、っていう設定。
が、スキです。笑