[ N E X T ]





わかってるんだ。
絶対振り向かないって。
お願いだから、私に優しくしないで。
それが成瀬くんのいいところだって知っているし、悪気があって優しくしてるわけじゃないってことも、知ってるよ。
だから、余計辛いんだ。
彼女以外の女の子に優しくしたらダメだよ・・・。

部室に移動していて派手に転んだ。
中庭には私しかいない。
石畳の上ですりむいた膝は流血。
流れる血を指ですくって、私は部室へ駆け込んだ。
部室には私しかいない。
ティッシュで押さえた膝がジンジン痛む。
赤く染まるティッシュをゴミ箱へ捨て、私はばんそうこうを貼った。
涙が出てきた。

初めから彼女がいるってわかっていた。
それでも好きだった。
付き合うことができなくても、好きでいられることが私の幸せだった。
優しくされたらその気になってしまう。
成瀬くんが浮気するわけない。私となんて。

ドラムセットに倒れこんだ。
シンバルが直立できなくなり、床に倒れた。
甲高い音が響く。
アコースティックギターを弾きながら部室に入ってくる仲間達。
私の大好きな曲。
私の涙で濡れた顔が、その曲を止めた。
それぞれ荷物を置いて部室から足早に立ち去る。
私はまたひとりぼっち。
本当は誰か傍にいてほしいのに。

大声で歌った。
部室に響く、私の叫び声。
一通り歌い終えて床に倒れこんだ。
部室に誰かが入ってきたけれど、起き上がらなかった。
ミルクティーの匂いがして、体を起こした。
成瀬くんが私の前にしゃがんでいて、ホットミルクティーの缶を私の目の前に置いていた。





「飲めば?落ち着くから」

「や・・・落ち着きたくないし」

は、いつもそうだよな」

「いつもって、何が?」

「俺の前では慌ただしい」





そう、成瀬くんの前で落ち着くなんて無理だ。
好きな人の前で平静を装うなんて無理だ。
心拍数は急上昇。
頭はフル回転しているけれど、全部空回り。

成瀬くんは缶のプルタブを引く。
カチャと音がして缶の口が開いた。
甘い紅茶の香りがする。
心が落ち着く。
私の、大好きな、ミルクティー。成瀬くんは、そのことを知っている。
缶に手を伸ばした。
あたたかい。
一口飲めば、心が温まった。
黙って立ち去る成瀬くん。

扉が閉まる前に言ったことは、本当のこと?





「彼女とは、別れたよ。付き合う前からのこと好きだったのに、付き合ってから気づいたんだ」





成瀬くんは、私に優しくしたかったんだ。
私に気づいてほしかったんだ。成瀬くんが、私のことを好きだってことに。

今度はアカペラじゃない。
ギターを掻き鳴らして、大好きな曲を大声で歌う。
涙で濡れた頬も乾いた。
目が赤く腫れていたって関係ない。
楽しくなってきた。
気分が上がってきた。





「あたしはー、なるせくんのことがー、すきー!!!!!!」





大声で叫んだ。
成瀬くんにこの声は届いてないはず。
でも、この気持ちは届いてるはず。
次は、私がこの声を成瀬くんに届けに行く番だ。









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成瀬さんの話は、いつもこんな感じでスミマセン。

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