[ ス イ ー ツ ハ ー バ ー ]





足りないのはカルシウムだ。元素記号はCa。
カルシウムとリンを1対1の割合で摂ることで、初めて身体にカルシウムが摂取できるんだ。
だから、どちらかが多すぎても少なすぎてもダメなんだ。
そのバランスがとれている食品が牛乳。
牛乳1本にリボンをつけて、巧に渡したいくらいだ。
何に怒っているのだろう。
何にいらついているのだろう。
話さなくても、見ているだけでわかってしまう。
私の何がいけないのだろう。

「ねぇ、何に怒ってんの?言ってくれなきゃわかんないよ」
そう言っても、巧の返事はないのだ。
ため息をついて、巧から離れた。
本気で、牛乳を贈らなければならない。

同じクラスだから、不穏な空気をみんなが察知する。
おそらく、私と巧の仲が悪いと勘違いされているだろう。
どうしたものやら。
チャイムが鳴って授業が始まった。
家庭科の教科書に載っている朝食の写真。
よだれが出そうなくらい、おいしそうだ。

悩みながら家に帰る。
途中、お菓子のいい匂いがした。
甘い甘い、クッキーの匂い。
グーと鳴るお腹に苦笑いしながら、私は家に帰るのだ。

家の中には誰もいない。
買い物に出かけたという母親の置き手紙と一緒に、焼いたばかりのカップケーキがあった。
私はそれを1つ食べる。
ふわふわの感触。甘い匂い。身体中、包み込まれる。
幸せだなぁ。
牛乳をカップに注いで飲む。
そうだ、巧に足りないのはおやつタイムだ。
明日は創立記念日で学校は休み。
休みだから工事をするらしく、学校は立ち入り禁止。
練習試合もなくて、巧は完全にオフだ。
ならば、私がおやつタイムを作り上げるまで。
お菓子のレシピをあさり、材料を買いに家を飛び出した。





創立記念日。
母親に手伝ってもらいながら作るお菓子。
なんだかんだ言って、手作りケーキを作るのは初めてだ。
オーブンレンジの中でふくらむ様子を見ていると、楽しくなる。
失敗するかな?という不安も、ちょっぴりあるけれど。

午前中に焼き上げたケーキは、いい匂いがした。
冷ましている間に昼ごはんを食べる。
牛乳1本とケーキを抱えて、巧の家におしかけた。
ノーアポで私が行ったものだから、巧はきょとんとしていた。



?え、今日、約束していたか?」
「ううん。ノーアポイントメント。お邪魔しまーす」
「何しに来たんだよ」
「おやつタイムに来ました〜。お菓子、作ったの」



作ったケーキを見せると、巧は驚いていた。
私の手作りケーキを見るのは初めてだからだ。
甘いお菓子とミルクで、立派なおやつタイムは構成できる。
おやつの時間までしばらくあるので、私と巧は部屋でまったりと過ごす。
巧の部屋はきれいに整っている。
ただ、机の上に積まれた参考書とノート、バスケットの雑誌を見て、いらだつ理由がわかった。
疲れているんだ。
あの葉山崎でバスケットをしながら勉強もする。どれだけ大変か簡単に想像できる。
部活をしていない私ですら、勉強についていくのに必死なんだ。



「ごめんね、何にも気づかないで」
が悪いわけじゃない」
「気づくのが恋人の仕事だもん」
「仕事は義務だからな。
 に義務的に何かやってほしいわけじゃないし、気づいてほしかったら俺が言うから問題ない」



それでも、内助の功というやつが必要だと思うんだ。
思いやりがあってこその恋人同士。
ただ一緒にいるだけじゃダメ。
お互いのプラスになるようにならなきゃダメなんだ。

あぁ、ダメダメ言ってる私にも、カルシウムが足りないのかもしれない。
おやつタイムも足りないのかもしれない。
義務じゃダメだ。
こうしようと思ってするからこそ、意味があるのだ。

おやつタイムに全部をリセットする。
ミルクとケーキが心を洗ってくれる。
全部、イチからやり直す。

「おいしいな、これ。ありがとう」
巧の言葉が、リセットした私に刻まれた最初の言葉。
感謝の言葉がほしいわけじゃないけれど、嬉しかった。
また、積み上げていこう。
思いやりから生まれる幸せを。









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最近、朝しか牛乳飲んでないから調子が悪いのかもー。
牛乳はいい薬だと思いますよ。
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