[ 駆 け 出 せ! 少 年 達 ]





苦しいときは傍にいてくれた。
楽しいときは一緒に笑ってくれた。
それだけで、満たされる。
好きになってしまう。

失恋したときに、私の話を黙って聞いてくれた。
成瀬はそういう奴だ。
とてもおもしろいことが起きて、くだらないことだったけれどハイテンションで話した。
そのときも、成瀬は黙って聞いて、一緒に笑ってくれたんだ。
一緒にいて疲れない。
一緒にいて、楽しくなれる、気分がよくなる。



「成瀬といると疲れないからいいんだよねー」
「そうか?逆だと思うな。疲れるだろ」
「ううん、全然疲れないよ。意外と癒し系なんじゃないの、成瀬は」
「それを言うなら、のほうが癒し系だろ」
「なごみ系だよ。意図的に癒してるわけじゃないもん」



しばらく癒し系となごみ系について論議したけれど、これこそくだらない話だ。
そして、成瀬は自分と誰かが一緒にいると、精神をすりへらして疲れるものだと思い込んでいた。
そこは、私が否定して熱心に語っておいた。
人によりけりだ。
私は成瀬と一緒にいたら疲れない。
高岩と一緒にいたら疲れる。絡みが多すぎるからだ。
私の対応の引き出しは、そんなに多くないよ。

昼休み、お弁当を食べ終えた私たちは、くだらないことで話の花を咲かせている。
委員会で召集がかかった友達は帰ってこず、隣の席の成瀬相手に時間つぶし。
暇な時間をつぶすどころか、幸せな時間だ。
席替えして隣の席になってよかった。
同じクラスでよかった。
好きになってよかった。

放課後、廊下を掃除していると高岩が目の前で仁王立ちになっている。
やれやれと思いながら相手をしてやると、案の定絡まれる。



「今、『やな奴に会ってしまった』って思っただろ?」
「そんなことないよ。会えてよかったっておもってるよ!」
「んなわけないじゃん、に限ってなぁ」
「ご名答。掃除してるんだから、邪魔しないでよね」



高岩と軽口を交わしていると、皆の注目を集めるのは必然的。
ため息をついて廊下を掃く。
「俺のことわかっていて、それでも無視するんだな。早くくっついて俺を諦めさせてよ」
そんな高岩のぼやきが聞こえた。
わかってるよ、高岩は私のことが好きなんだよ。
でも、私は成瀬が好き。それは高岩も承知のこと。
高岩を諦めさせるために付き合う?それは違う。
成瀬のことは好きだけれど、付き合いたいわけじゃない。
付き合いたくないわけじゃないけれど、今のままの関係でいいんだ。
少し疲れたときに、少し話して笑えるくらいの関係でちょうどいい。
居心地のいい場所は、離れたくない。
たとえ、もっと居心地のいい場所が傍にあったとしても、移動する間の恐怖には耐えられない。

掃除を終えて教室に戻った。
成瀬がまだ教室に残って、一人で黒板を磨いていた。
じゃんけんで負けたら黒板掃除。負けちゃったんだね。
黒板消しを手に取り、私は成瀬を手伝う。
「いい、俺の仕事だから」と私から黒板消しを奪おうとする成瀬。
私はそれを阻止する。



「少しくらい、手伝わせてよ。ありがとうって言うだけでいいんだよ、成瀬は」
「あ、ありがとう」
「それでいいの。人の厚意はありがたく受け取っておくもんだよ」



成瀬だから手伝ったわけじゃない。
そう言い聞かせていた。
成瀬にいいところを見せたいわけじゃない。
ただ、手伝いたかっただけ。
ただ、傍にいたかっただけ。

その後、あまり話せずに別れた。
いつものように足踏みしてる。
ソファから立ち上がれない。
このままじゃ、何も変わらない。
変わらないことを望んでいるはずだけど、高岩の言葉が頭から離れない。

「諦めさせてよ」
高岩のためじゃない。
私のためにも、高岩を諦めさせなくちゃいけないのかもしれない。
そう思った。

成瀬の背中を見送った。
視界から消える前に駆け出した。
追いつけるかな。
今度、ご飯でも食べながら、一緒に話せるかな。









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一生懸命な姿って、いいと思います。

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