[ feel so ]





お互い気づいているのに、一歩も踏み出せないでいる。
『恐れるものはなにもない』
誰だ、そんな言葉を吐く奴は。
怖いから、踏み出せないんだ。

吐く息は白い。
空気は重い。
空は青い。
隣には誰もいない。

「おはよっ」
肩を軽く叩かれる。
横を見れば笑った顔を見せるがいる。
黒いマフラーであごまで覆っている。
毎日、この時間になればこのあたりで必ず会う。
そして、教室まで並んで歩く。
今日はレッスン9の英単語テストがある。
の手には、英単語を書き出した紙切れが1枚あった。



「勉強したー?」
「少しだけ」
「そっかー。私はずっと古文の勉強してたから、英語は全くやってなくて」
「今週だよな、入試」



冬休みまであと少し。
受験勉強の追い込み。
入試はもう始まっている。
試験日が早いか遅いか、それだけが違う。
頷いたは、紙切れに目をやる。
黙ったまま歩くのにも慣れた。
話さなくても、一緒にいるだけで心が温まるのならそれでいいのだ。
気づいてる。
「好き」と言わないけれど、お互い好きと思っているということを。
ただ今の俺達に、その言葉を相手に伝える勇気がないということと、伝える必要がないということと。

まだ吐く息は白い。
まだ空は青い。
空気は、少しだけ軽くなった。
気分も軽くなった。
隣には、がいる。
俺はひとりじゃない。

俺達に必要なのは「合格」という2文字。
必要でないとは言い切ることはできない。
何のために、そんな疑問は不要だ。
流されることも、生きるためには必要なんだ。

流されて恋に生きることも必要?
そうかもしれないな。

の態度が俺に対して違うのは見ていればわかる。
とげがない。
高岩はそれに同意し、俺の態度はそう変わらないと言った。
ばれる、ばれないの問題ではない。
俺の態度が他から見て変わらないのであれば、それは危険だ。
分け隔てなく付き合うことはいいことだけれど、何らかの意思表示をしていないということに直結する。
「俺は誰も好きではない」と言っているようなもんだ。
「好き」という想いを伝えなくとも、想っているからこその優しさは与えたい。
少しでも幸せになってほしいから。



「なーんか、幸せだよね」
「どうして?」
「英語のテストあるし、入試も目前。切羽詰ってるけど、生きてるって感じがして幸せ」
「それはよかったな」
「うん」



どうでもいいようなことが幸せで、当たり前のように転がっていることも幸せで。
何かに打ち込むことで生きていることを忘れようとするのだけれど、それが逆に生きていることを実感させてくれる。
なんだかどうでもよくなってきた。
考えるだけ無駄。
本能のままに、生きればいい。
本能のままに、俺なりに、のことを想えばいい。









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極論かもしれませんが、自分なりに何でもやってしまえばいい気がする。
そう、考えるだけ無駄。
成長するために無駄は必要だけど、
自分を落としてしまうくらいならそんなものはいらない。
って思います。
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