[ ヒ ト ト ヒ ト ]





「あ、巧!」
名前を呼ばれて振り返ると、が走っていた。
俺の隣に並び、笑顔を見せる。
日も沈みかけている。
もう6時だ。こんな時間までが学校にいるのは珍しい。





「珍しいな、こんな時間までいるなんて」

「図書室で本読んでたら、続きが気になって止まらなくなっちゃった」

「本の虫だな」

「本、大好きだもん」





はとても嬉しそうにしていた。
何よりも本が大切だと言っていたけれど、それをの顔が証明している。
満足そうなの顔に、俺まで満足できた。
久しぶりに会ったの顔が、笑顔だったから。
掴んだの手は、暖房の効いた部屋にいたから温かい。
手を繋いで歩く冬の帰り道は、寒くなかった。

無邪気に話すは、とても楽しそうで嬉しそうで。
俺はの隣で話に耳を傾けている。
本当に小さなこと、会話をするだけで心が満たされる。
それは心が弱っているからか?
それは自分の器が大きくなったからか?
両方違うな。
が隣にいるから。それだけ。

「今度さー、でかけようよ」
そう言ったの顔は、なんだか少し淋しそうだった。
今は一緒にいられるけれど、家に帰ればひとり。
部活で帰りが遅い俺と、一緒に帰ることはほとんどない。
デートなんてほとんど行けない。
俺じゃない人と付き合っていれば、そんな淋しい思いはしなくて済んだ。
けれど、俺と付き合っているのは、俺がよかったから。
俺だけ満たされてもだめなんだ。
ちゃんと、も満たしてやらないと。





「来月の日曜日オフだから、その時でいいか?かなり先の話になるけれど」

「え、ほんと?オフだったら巧は休んだほうがいいんじゃない?」

「オフだからこそ、俺の好きなように使いたいから」

「私の為に、じゃなくて?」

「半分ずつくらいかな」





は笑顔で何度も頷く。
満たされてなかったら、うまくは笑えない。
「やったーやったー」と連呼するは、上機嫌。
俺も、機嫌が良くなる。
疲れが癒された。

「本さえあれば他になんにもいらないよ」と言うわりに、俺といる時間を大切にしてくれる。
「バスケットさえあれば他に何もいらない」と言う俺は、のことを大切にできていない。
好きな人と好きなものは別モノだ。
部活がある限り、デートに行く時間なんてないけれど、時間ができればどんどん行こう。
それでが笑ってくれるのならば、俺の行動にも意味ができる。









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人と人のつながりって意味のタイトルです。
本を読み出すと、止まらないんだなぁ、これが。
やめられない、とまらない、かーっぱえびせんっ。

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