# 常 識 で し ょ う 。 #





この敷地の中で常識になりつつある。
ほんと、狭い世界での常識。
高岩覚司はが好きだけれど、は高岩覚司が好きじゃない。
そういう常識。
いつのまに広まったのだろうと俺は疑問に思った。
けれど、よく考えてみれば、俺の行動ひとつひとつにへのアピールが入っていて、「そりゃぁバレるだろ、おいッ」とひとりツッコミをしていた。

放課後、クラスメイトに呼び止められた。
そいつは生徒会役員で、今年度のバスケ部の生徒会予算の書類を早く出せと催促してきた。
うっかりしていて、締め切りは昨日だと今思い出した。
大慌てで部室へ行き、書類に顧問の判をもらい、生徒会室へ駆ける。
校舎の4階の角、なかなか日当たりの良い、元は空き教室だった所が生徒会室になっている。
中は意外と私物が多く生徒会役員が休み時間に常時入り浸っている程、快適なのだ。
誰かが家から持ち込んだ、マンガ、PSone、ぬいぐるみなど、ここは誰かの家ではないかと思えるくらいの荷物の量。
それ以外には、きちんとコピー機、印刷機、資料の本棚、裁断機、パソコンなど仕事のものが置いてある。
今日は中には人はひとりしかいないようで、俺はニコニコ笑顔で生徒会室に入っていった。
今期の生徒会の会計はだから、俺が用のある人間と言えばなのだ。
は、机の上に資料を積み上げて、赤ペンと黒ペンを使い分けてぶつぶつ言いながらチェックしている。





「すんませーん、遅くなって申し訳ないっス」

「謝るんなら早く持って来いっての。まぁ、まだチェック入れてる途中だから全然構わないんだけど。
 私に会いたいから早く持って来ました、とか言うくらいで持ってきて欲しいよね。そしたら、さっさと仕事終わって帰れるのに」

「ゴメンゴメン、完全に忘れてたんだって。試合とかあったし」

「それはどこの部でも一緒。テニス部の穂住君なんてすぐ持って来たよ」

「えー、サ〜ン、それって穂住が好きってこと?」

「バーカ、そんなんじゃないっての。穂住君の彼女って私の妹だもん」





初耳だ。には1つ下の妹がいるのだ。好きな人のことならなんでも知りたいと思ってしまう。
それは、欲張りでもなんでもなくて、当然のことなんだって、最近になってわかった気がする。
俺は遠慮もせずにの向かい側の席に座り、筆を進めるの姿を眺めていた。
は何事も無く資料を見てチェックを入れて、次の資料をとってチェックを入れて、と繰り返していた。
ずっと見つめているのに何も反応が無くて、俺はつまらなくなり席をたった。





「で、あんた何したかったの?長居は無用、早く部活行きなよ」

「えー、ちゃんの働く姿を見てたんだけど、反応無いから部活行こうかなって」

「それでいいのよ。さっさと帰りな」





そっけない口調の。いつものことだけれど、傷つかなくなった。
こうやって冷たく接するのは愛情の裏返しなのだと、長い間見ていてわかったのだ。
彼女の周りにいる子達は、どんなに冷たくされても笑顔でずっと一緒にいる。
当の本人も周りの子達も、仲が良くなるほど冷たくなると認識している。
好きだから、わかりあえるから、構わなくてもいいのだと思うからだろうか。
俺は対照的に、好きだからもっと構いたくなる。
けれど、押してばかりでは相手にされない。こうやってたまには引くのだ。
『押してだめなら引いてみろ』
そういうこと。





「じゃーねー、チャン」と声を掛けて俺は生徒会室から出て行く。
俺はなぜか満足できた。
ひとつ、の好きな人は穂住ではないということ。イコール、それ以外の男だから俺だという確率も高くなる。
ふたつ、には1つ下の妹がいることを知った。姉君に似てやはり好きな人ほど冷たくなるのか?
みっつ、は俺には冷たく接する。イコール仲が良いということ。
ただ、考えていてはとても損な人間だなと思った。
他人から見たら冷たい人間に見えてしまうのではないかと。
まぁ、友達の数でその人の人間性が決まるわけではないから、どうでもよいことなのだろう。

数日後の予算折衝。
俺とマネージャーの男を連れて生徒会室の隣の会議室へ行く。
生徒会とバスケ部で希望予算の内容、どういった理由で必要なのかということを話し合う。
男子バスケット部は去年のインターハイでの結果などの関係で、希望通りの予算を頂戴することができた。
というより、去年もらった金額より1万円上乗せしただけだから、生徒側ともめることなく終えることが出来たのだ。
後は、が丸く収めてくれたからというのもあるだろう。






「今年のインハイは全国優勝狙えるんでしょ?だったら頑張れって意味も含めて1万円くらいなんとかなるでしょう。
 バスケ部は希望の星だもんね、葉山崎の。こっちの予算を削れば何とかなるよね」

「おっ、ありがとうございます、様」

「別に高岩の為じゃないから」





は隣に座る生徒会長に「高岩の為だろぉ」とからかわれて、「うるさい」と一蹴する。
会長は「素直じゃないよな」と俺に同意を求める。
俺は笑いながら会議室から離れた。
あの会長の発言は、少し俺を期待させるものだった。期待しても、いいのだろうか。

その後、体育館へ戻った俺は部活にまざり、トレーニングメニューをこなしていった。
日が暮れる頃には部活を終えるよう監督に指示され、体育館の片づけをし、部室でひと息つく。
体育館の外にある冷水機で水を飲む。
隣にある自動販売機へ向かっていた足音が止まった。
「たかいわー」と声がする。
声を聞けばだいたい誰なのかわかる。だろう。





「おぉ、何してんの?」

「乾燥してきたから午後ティー買いに来たの。暖房効いてるとこにいると乾くのよねぇ」

「ミルクティー好きだよな。まだ仕事あんの?」

「あとちょっとだけ。今日中に出さなくちゃいけないものあるし」





いつもと違って笑顔な
稀に、にこやかに話すのだ。あぁ、好物のミルクティーを買いにきたからか。
陽が沈みかけ、夕方から夜にかけてのあの独特な落ち着いた雰囲気に飲み込まれてしまった。





はさぁ、好きな奴いないの?」

「え?別にいないかなぁ。・・・最近ときめかないもん。そういう高岩は?・・・って私か。常識ね」

「俺のこと、好きになんないの?」





核心をつく質問をしてみた。
はしばらく考えるポーズをしていたけれど、笑顔で「わかんない」と答えた。
わからないということは好きではないということ。けれど、嫌いでもない、まんざらでもないということだろう。





「なんだかんだ言って一緒にいるのが当たり前になってるし、けっこう高岩といると楽しいし。
 うーん、そういうのを好きっていうのかもしれないけど、なんかそういう感じじゃないのよね。
 友達と親友と恋人と混ぜて3で割った程度で親密、みたいな?それか恋って気づいてないだけなのか」

「なんか難しいよ。まぁ、恋焦がれて胸が締め付けられるってのは無いってことだよね」

「そうね」





ほしい答えは出してくれなかったけれど、嫌われていない、むしろ好意的なものを感じた。
は仕事をしに生徒会室へ戻っていったけれど、俺はしばらく自動販売機の前でブラブラしていた。
考えても仕方が無い。
俺はまたいつも通り過ごすだけ。
こんなことくらいで好きでなくなるわけがない。
当分ずっと好きでいる。それが俺の中で出た結論。
諦めたら男が廃ると思う。









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また意味のよくわからない話を書いてしまった。
恋の話じゃなくて日常の話を書きたいんです、ただの小説とか。
この生徒会室は私がいた時の高校の生徒会室です。
後輩が攻略本片手にPSoneで幻想水滸伝やってました。
マンガの山があって、休憩中にみんなで読みあさってました。
得体の知れない液体を作ったりして1年発酵させました。臭いがヤバかった。
とてもなつかしい良き思い出。

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