[  Valentine's Day 2015 ]





■レノの場合

タークスの事務所に行くと、主任の机の上にてんこもりの箱。
すごく甘ったるい匂いがする。
吐きそうだ。
俺のじゃないから。
なんで、俺の分がないんだ。


「くっそ、なんで俺の分のチョコレートないんだよ」
「日頃の行いが悪いからだ、相棒」
「ルード! お前は?」
「いくつかもらった」
「なんで、俺だけないんだよ」
に頼め」
か・・・頼めば嫌と言わないから、くれそうだな」


のいる研究室を訪れると、は休暇をとっていて不在だと言われた。
ショック。
俺、今年、チョコレートなしかよ。
タークスのエース、レノ様の面目立たず。

神羅ビルの中も、チョコレートやクッキー、マフィンのやりとりであふれかえっている。
最近の流行は友チョコ。
友人同士で交換するくらいなら、そこに俺を混ぜてくれ!

欲しいんだ。
誰かにとって、俺が特別なんだって言ってほしいんだ。
必要とされたいんだ。
仕事の相棒はルードで間に合っているが、そういうのとは違うんだ。

こんな日は、早退してバーで飲み明かすに限る。
ルードに仕事を押し付けて、神羅ビルを抜け出した。

外国の珍しいビールが入ったらしく、バーのマスターに勧められるまま、カウンターで飲み倒した。
意識が朦朧とするくらい飲んだ頃、ようやく独り者の客がやってきて、俺の隣に腰掛ける。


「レノさん、捜しましたよ」
「お、おい、、どうしてここに」
「ルードさんに教えてもらいました。きっとここにいるだろうって。よかった、会えなかったらどうしようかと思いましたよ」
「俺に、用なんてあるのか?」
「当たり前じゃないですか。これを渡しに」


笑顔のが俺に差し出したのは、透明のラッピング袋。
中に入っているのは、お菓子。
それを、俺に、くれるのか?
受け取れずにいると、は悲しそうな顔をする。


「お菓子、嫌いですか?」
「違う、違う。好き、好き、大好きだぞ、と」
「よかった! バレンタインだから、作ったんです。ぜひ、お召し上がりください」
「ありがとう。嬉しい、嬉しいぞ、と!」


は喜んで笑顔を輝かせる。
今日の俺は世界で一番の幸せ者だ。





■ルーファウスの場合

もうなんでもいいやと投げやりに選んだチョコレート。
どうせ、「が選んだものなら、喜んで受け取る」と言うだけだから、財布がすっからかんにならない程度にしておこう。
手抜きじゃない。
もっと愛をこめて贈ってくれる人がたくさんいるから、私の愛は軽めにしているの。


、これを私に食べろと」
「ええ」
「愛がこもっているように見えないな」
「しっかりこめたけど、ルーファウスには見えないのね」
「そういうことか」


モーグリのイラストが描かれたチョコレート。
子供がもらって喜びそうな、それ。


「それじゃだめ?」
「だめだ」
「何ならいいの?」
「そうだな、がほしい」
「バカ」


ルーファウスは私の手首を掴んで引く。
当然、私はルーファウスの胸に飛び込む形になる。


「他の人がくれる高級チョコでも食べておけばいいじゃない」
から欲しいのだ」
「そういうものなの?」
「そういうものだ。例えば、そのモーグリのチョコレートをレノからもらったどうする?」
「レノから?」


想像してみる。
レノからもらったら、「なにこれ、かわいい! そういう趣味なの?」とからかいつつ食べると思う。


「なら、私が渡せば?」
「ルーファウスが?」


ルーファウスが市民に混ざって、モーグリチョコを眺めているところを想像して思わず吹き出してしまった。
ルーファウスはムッとしている。
実際、買うとしたらツォンさんが遣いに出されるだけなんだろうな。


「喜んで受け取るし、喜んで食べるよ。だって、チョコレート好きだもの」
に質問した私が悪かった」


溜息をつきながら、ルーファウスは私の顎を持ち上げる。
何をするのかなんて、もう慣れっこだ。すぐにわかる。


「今日はチョコレートより、が食べたい」
「そういうこと、真面目な顔してさらっと言わないで。神羅カンパニーの社長のイメージ台無し」
「今の私は、ただの男だ」
「オスの間違いじゃない?」
「どちらも同じことだ」


唇から伝わる熱。
ルーファウスにまとわりついたチョコレートの甘い匂い。
目眩がするよ。




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ハッピーバレンタイン!
チョコレートの匂いって甘くて好き。
食べるのは・・・ほどほどでいい。

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