イケメンは何をやっても許される?
ええ、そうね。許してしまうわね。
社長なんて肩書きを持っていたら、尚更。





      [ 熱 い 消 毒 液 ]





任務を終えて神羅ビルに戻ると、受付嬢が「さん、社長がお呼びですよ」と声を掛けられる。
いい予感がまったくしない。寒気がする。
眉間に皺を寄せてエレベーターに乗ると、途中の階でツォンさんが同乗してきた。



「社長に呼ばれてるんですけど、なんなんですかね。いいかげん、セクハラで訴えたい」
が訴えても、揉み消されるだけだろ」
「ツォンさんー、かわいい部下が困っているのに助けてくれないのですか」



ツォンさんは、こちらから顔を逸らし、「レノの奴、資料まとめずに帰ったからなぁ」とぼやいている。
あからさまだ。
神羅カンパニーはセクハラセミナーを開くべきだ。
いや、逆にセクハラ励行セミナーになりそうで怖い。
タークスの事務所があるフロアでツォンさんは爽やかに降りていき、入れ替わりでレノが同乗してくる。
帰ったんじゃないのかよ!

目を一瞬合わせて、その後は無言。
レノはだらっとエレベーター内の壁にもたれかかった。
私は相変わらず、眉間に皺を寄せたまま、最上階への到着を待った。

レノも最上階まで来たものだから、不思議に思う。
社長に呼ばれたのは私だけじゃないのか。
ところが、社長の部屋の扉をくぐったのは私だけで、レノはエレベーターホール前で突っ立っている。
振り返ると、レノは愉快そうに笑って手を振っていた。
身の危険を感じて社長室から逃げようとするが、レノが瞬間移動して社長室の扉を閉める。
そして、社長は扉に鍵をかけて、仁王立ち。
私に逃げ場はない。
いや、正確には壁をぶち抜けばどこへでも逃げられるのだが、社長室を破壊するという恐ろしい行為に臨むほど強気にはなれない。



「何の御用でしょうか」
「特にないが」
「はぁ?」
の顔が見たくなった。それだけだ」
「業務阻害で訴えてやる」
「私が却下するから、無駄な時間を消費するだけだ」
「まったく、私の顔が見たいとか意味がわからない。なら、写真でも貼っておけばいいじゃない」
「君の美しさは、二次元の中に収まる美しさではないだろう?本物を愛でてこそ、意味がある」
「愛でなくて結構です」



聞いているこちらのほうが恥ずかしくなるようなことを、平気な顔して言ってのけるものだから、困ってしまう。
社長が私のことを気に入っていることは、嬉しく思う。
けれど、私は社長とどうにかなろうとは思わないし、セクハラパワハラで少しうんざりしているのも事実。

私が抵抗しなくなったのを見計らって、社長は扉から離れた。
少し我慢すれば逃がしてくれるはずだから、私は逃げない。
社長が席につくまで姿を目で追っていると、床に資料が数枚落ちていることに気づく。
私はそれを拾い上げるのだけれど、あっさり紙で指を切ってしまう。
なんという切れ味の資料。さすが社長のもの!

真っ赤な血が指からにじむ。
私はそれをぺろりと舐めた。
けれど、じわじわ血がにじむ。
資料に血をつけないように、切れなかった右手で資料をデスクの上に置く。
すると、机越しに社長から左手を掴まれる。



「切れたのか」
「ええ、切れ味のよい紙でした」
「そうか」



あっさり言い、さも当然のごとく、私の指を舐める社長。
私は驚いて絶叫してしまい、社長が眉をひそめた。




「ぎゃああああああ」
「驚くことではないだろう。それに色気のない叫び声だな」
「指、ちょ、舐め。あー、もうっ、なんつーことするんですか!」
の指を舐めただけだが?」



きっと社長にとっては「今日も空は青い」と言っているようなものなんだろうな。
顔を真っ赤にして硬直している私を見て、社長は満足そうにほくそ笑む。
そして、左手の指先をすべて舐める。
私は息を呑む。
左手を掴んでいた社長の手が、離れた。
そして、ゆっくり私の頬に添えられる。
ボディタッチは何度もあるけれど、顔を触られるのは初めてだ。

社長の目に捕まった。
目を逸らすことができない。
ストップの魔法でも掛けられたように、動くことができない。
思考回路はぐるぐる回っている。
やばい、やばい、やばい、逃げないとやばい。
でも逃げられない。
社長の顔が迫ってくる。
イケメンすぎて眩しい。
ちょっと、レノ、ホールにいるなら助けてよ。
なんで私、女に生まれたの?
男に生まれたらこんなことにならないのに。
きっとレノの立場になっている。

あー、もー、やだ!!!
覚悟を決めて目をぎゅっと瞑ると、唇に柔らかい感触。




「やっと覚悟を決めたか。これは褒美だ」



そう言って、社長はもう一度、私に口付けた。









**************************************************

社長、こういうのしか思いつかなくなってきた。笑

inserted by FC2 system