[ 伝えたいこと ]





甘えたい。
けれど、この人には甘えられない。
弱音は、誰にも吐けない。

食事に行こうと誘ってくれたのはあなた。
けれど、豪華な食事を目の前にしても、私の食欲はなかった。
愛しのあなたを目の前にしても、笑顔になれなかった。
淡々と目の前のフルコースに手をつけるあなたと、食事の進まない私。





、食べないのか?嫌いだったか?」
「いえ、嫌いではないのですが・・・」
「最近、調子が悪いそうだが。ツォンも心配していた。病院に行った方が・・・もしかして、妊娠したのか?」
「ち・が・い・ま・す!」
「それは非常に残念だ」





何を言い出すのだ、この人は。
私は呆れて食事を進めることにした。
ステーキのおいしさに、ルーファウスのさっきの発言は忘れることができた。
それにしても、天下の神羅カンパニー社長が授かり婚なんて、世間体があったもんじゃない。

正直言って、ルーファウスが私に興味をもった理由がわからない。
尋ねたところで、いつも誤魔化される。
微笑んでくれるから、どうでもよくなっていた。
大事なことは、彼が私に興味を持っているということ。
それだけあれば十分なんだ。

逆に、私は彼のどこに興味を持ったのだろう。
神羅カンパニーで働く人間にとって、神のような存在だ。
そんな彼に、食事へ誘われたらノーとは言えなかった。
あれから二年近く経つのだろうか。
食事には行く、彼の家には行く。
けれど、食事以外のデートには行ったことがない。

デザートのティラミスをおいしくいただき、私は満足していた。
彼は知っている。
私が何よりもデザートが大好きだということを。
夜景の見えるレストラン。
私はデザートを最後に食べ、彼は赤ワインを飲んでいた。

彼は立ち上がり、私の隣へ移動する。
ソファに深く沈む。
肩を抱かれ、デザートが食べにくい。
フォークを持った私の右手を包み込むように、ルーファウスの右手が重なる。
フォークはティラミスをすくい、私の口元へ運んでくれる。
私が右手を動かさなくとも、ルーファウスが動かしてくれる。
ティラミスの甘さに、彼が傍にいることに、泣いた。





「なぜ、泣く?」
「い、え。なんでもありません」
「言いたいことがあるなら、遠慮なく言いたまえ。心に留めたままでは、伝わらない」
「そう、ですね」





当たり前のことを言われた。
弱音を吐いても言いのだろうか。
甘えてもいいのだろうか。

体をルーファウスのほうへ寄せた。
寂しくてたまらなかった。
恋しくてたまらなかった。
また、涙がこぼれてしまった。
ルーファウスの指が、私の涙を受け止めてくれた。





「君らしくないな、泣くなんて」
「私だって、泣くときは泣くんです」
「普段泣かないのは、強がっているから、か。どこかで息抜きしないと、窒息してしまう」
「ええ」
「あえて、息継ぎをできないようにさせたくなることもあるが、な」





ルーファウスの言おうとしたことが理解できず首をかしげると、彼は私に口付ける。
ああ、こういうことか。
甘く痺れる感覚が、気持ちよかった。
頭を優しく撫でる感触が、心地よかった。
ルーファウスにしがみつくように抱きついた。
大きな掌が、私の背中を優しく撫でてくれた。

幸せな時が流れていく。
けれど、それをぶち壊してくれるのがルーファウスだ。





「そろそろ・・・」
「あ、ごめんなさい。そろそろ帰りますか?」
「いや、そろそろ子供が欲しいと思ってな」
「は?」
「今ならタークスからが産休で抜けても問題なかろう」





呆れた顔をしていたら、強く抱きしめられた。









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社長が、しれっとした顔で変態的発言するのが好きです。笑

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