[ 絶望的な世界で、]





目の前を白いものがちらつく。
雪だ。
珍しい。ミッドガルで雪が降るなんて。
私は空を見上げた。
雲に覆われていて、薄暗い。
灰色の空にも、白い雪にも何の魅力も感じなかった。

疲れている。

ため息を吐いた。
吐く息が白かった。
寒い。
懐が寒い。
給料が下がった。冬のボーナスも、たいしてもらえなかった。
元々、安月給。
こんな仕事でも、あるだけありがたい。
けれど、お金はほしい。
最低限の収入で、娯楽にありつけるわけがない。
帰り道のど真ん中にあるショッピングモールは、いつも迂回していた。
けれど、雪が降って寒いから、突っ切った。
バッグ、サイフ、ニットのカーディガン、花柄のワンピース、カーゴパンツ。
目に飛び込んでくるものは、全部欲しい。
けれど、お金がない。

ショッピングモールを抜けて、路地を歩いていた。
頭の上に、雪が積もるくらい降るのだろうか。雪は、やまない。
給料日前で本当にお金がない。
晩御飯は抜こう。
食費を切り詰める以外に、どこから出費を抑えろというのだ?

ため息を吐いた。
吐いても、何も起こらない。
エネルギーの無駄だ。
俯いた。
涙がこぼれた。
涙を流しながら歩いた。
前をよく見てなかったようで、誰かにぶつかってしまった。
手の甲で涙をぬぐって、ぶつかってしまった相手を見た。
血の気が引いた。
こんなにも美しい金髪の男性が存在するものなのだろうか。
私にとっては神のような存在だ。
ルーファウス・神羅。
神羅カンパニーの現社長。





「も、申し訳ありません、前方不注意でした」
「気にすることはない。それより・・・」
「あ、あの・・・」
「君のほうが心配だ。泣いているのか?」





ルーファウスは私の頬に手を伸ばし、涙の跡を右手の人差し指でなぞった。
恐怖で体が震える。
半開きになった口、歯がカチカチ噛み合う音が聞こえる。
何を思ったのだろう、ルーファウスはその腕で私を強く抱きしめた。
その瞬間、呼吸をすることを忘れてしまった。
しばらくして、息苦しさに気づき、大きく息を吸い込む。
間違いなく、人のぬくもりは温かかった。

背中をゆっくり撫でる手。
時々、私の髪を弄ぶ手。
首筋や耳に当たる、吐息。
気を失いそうだ。
相手は誰だ?
神羅カンパニーの社長だ。
どうしてこんな低層の一般市民に構う?
我に返って、相手から離れようとした。
けれど、私を抱きとめる力が強すぎて離れられない。
抵抗してもがいていたら、耳元で囁かれた。





「何をしている?」
「何をって、離して、下さい」
「この天気だ。抱き合っているほうが、寒くなくていいだろうに」
「こんなところで、しかも私なんかと、頭おかしいんですか?」





言ってから気づいた。
とんでもないことをルーファウスに向かって言った事に。
再び、血の気が引いた。
ガタガタ体が震える。
私を抱くルーファウスの腕の力が強くなる。
片手は、私の顔をルーファウスの胸に押し付けるように、私の頭を押さえている。

何が何だかわからない。
気が遠のきそう。
全身の力が抜けて、私は膝からガクっと地面に崩れ落ちそうになる。
けれど、ルーファウスに抱きとめられて、膝を少し曲げた状態で止まってしまった。
するとどうだろう、ルーファウスは「ククッ」とくぐもった声で笑って、私を宙に浮かせる。
いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。

とにかく言葉が出ない。
悲鳴すら出ない。
のどがひきつっている。
非常識にも程があるけれど、お腹が空いているからグーっと鳴ってしまった。
ルーファウスは目を丸くしている。





「ならば話は早い」
「え、いや、なんで」
「私は君に興味がある。ディナーを一緒にとりながらゆっくり話そうではないか」
「いや、なんで私なんかに興味とか・・・」
「絶望的な顔をしていたからな。それが美しかった」
「・・・・・・」





私は何も言えなかった。
絶望的な顔をしていたのか。
ルーファウスは私を解放する気がないらしい。
雪が降る中、私を抱きかかえたまま、路地裏のカフェまで歩くルーファウス。
そして、今更ながら、こう言うのだ。
「私のことは、言わずとも知っているだろう。ルーファウス・神羅だ。君の名前は?」

、です」
そう言えば、満足そうに「、か」と私の名前を呟いていた。









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うわっ、微妙orz
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