[ さみしいとさみしいを束ねて ]





「今日はディナーを共に」

 何度約束しただろう。そして反故にされただろう。ルーファウスが神羅カンパニーの社長で多忙なことは承知の上で交際を始めたものの、一般人の私がさみしさを我慢するにはあまりにも放置されすぎた。メールも電話もよこさない。その癖に連絡なしに私の部屋に上がり込んでくる。それでも嬉しさが勝るのは、好きだから。
 会いたいと言っても会いに来てくれない奴なんて恋人にすべきではないと、どこかの誰かが言っているそうだが、好きなのだから仕方がない。会いたいと思っても会えないのが分かっているから言えない。わがままを言わないいい子でいたい。ルーファウスの荷物にはなりたくない。
 ルーファウスとディナーの約束をしていたから、いつもより小綺麗な服装で、メイクも入念にしていた。待ち合わせ場所に着くなりルーファウスから電話がかかってきて約束を反故にされた。不貞腐れるのにも飽きて、一人でバーに入る。タークスお気に入りのこのバーにはルーファウスと何度も足を運んだ。今日もレノさんとルードさんがしっぽり飲んでいる。

「ご機嫌いかが、タークスのみなさま」
「よぉ、か。一人で来てるってことは、社長に泣かされたか、と」
「イエス。もうさみしいなんて言葉が出て来なくなっちゃった」

 愚痴ならタークスのメンツが聞いてくれる。でも愛だけはルーファウスからしか得られない。
 本当はさみしい。さみしくてさみしくて、会いたくて会いたくて、愛に飢えている。

 飲みすぎて眠たくなってきて、目を閉じてバーカウンターで眠ってしまった。多分、ルードさんに担がれてタクシーに押し込まれて家に着いたら運転手さんに起こされるんだ。
 けれど、目を覚ましたら白い天井が目の前に広がっていて、体を起こせばいつもの自分のベッドの上で眠っていたことが分かった。「ん……」と鼻にかかった男性の声が聞こえて、タオルケットを握りしめて胸元に寄せれば白い姿の男性が寝返りを打つ。金髪がさらりとその人の顔にかかる。

「ルーファウス……どうしてここに」
「バーでが眠っていると聞いて迎えに行ったまでだ」
「起きてるの?」
「今、起きた」

 体を起こしたルーファウスは私の頭を撫でて頬をなぞるように触れる。親指が唇に触れて唇を揺らす。手が離れるとすぐに口付けられた。今日の約束を反故にしたのはこれで許してくれというのだろうか。
 許さない、なんて言えない。でも、許すとも言いたくない。
 ルーファウスに抱き寄せられて再びベッドの上に寝転がる。愛しい人に抱きしめられて眠れるのならば幸せなことだ。

「すまない、今夜の約束を反故にして」
「もういいよ、気にしてない」
「散々の愚痴を聞かされたとレノが言っていた」
「レノさんのバカ」
「私の前では正直でいい」

 愛しい人のぬくもりは心まで溶かしてくれる。我慢していた気持ちは全部吐き出せそうだ。

「さみしかった。さみしくてさみしくて、会いたくて会いたくて、顔を合わせて声が聞きたくて、こうしてぬくもりを感じたくて、愛されたいって思った」
「あいしてる」
「愛してるなら約束を反故にしないで。無理なお願いってわかって言ってるけど」
「努力する。?」
「なに?」
「愛してる」

 もうこの言葉だけがあれば生きていける気がする。










タイトルはエナメル様からお借りしました。


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さみしいとさみしいを束ねたら愛が生まれる、と思う

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