[ いってきますのごあいさつ ]
「しゃちょー」
間抜けなの声が部屋に響く。
俺は聞こえなかったふりをして、手元にある資料に目を通していた。
「社長は聞いてないフリがお上手ですね」
目だけのほうへ向けてみた。
の目は笑っていなかった。
「どうかしたか、?」
声を掛ければ、俺を睨みつけてくる。
あぁ、そうだったな。俺が呼び出したのだった。
「自分で呼び出しておいて忘れてるなんていい度胸ね」
「私にそんな物言いでいいのかな?」
「これはこれは、社長はわたくしのような者の言葉遣いも気になさるのですね。
虫ケラに御用はないかと思いますが」
「誰がいつを虫ケラ扱いしたというのかね」
はため息をついて私の目の前へ移動してきた。
そして私の方へ両腕を伸ばしてくる。
俺は資料を机の上に置き、立ち上がった。
から積極的に触れようとするなんて珍しい。
タークスのスーツ姿を強く抱きしめた。
俺の胸に顔を埋めたまま、はぼそぼそ呟いた。
「しばらく、ミッドガルから離れるから。当分、会えないんで、お別れの挨拶を」
「あぁ、必ず私の元へ戻ってくるように」
「うん、必ず」
が任務でミッドガルから離れることは頻繁にある。
けれど、今回のように長期間離れることはなかった。
だから、離れる前に一度会っておこうと思って呼び出した。
ただ、それだけ。
社長としてではなく、恋人として呼び出した。
公私混同と言われればそれまでだ。
を胸から少し離して口付けた。何度も、何度も。
会えなくなる時間の淋しさを埋めておけるように。
「社長ー、遅いぞ、と」
空気を読めない馬鹿が、どかどかと社長室へあがりこんでくる。
はレノの入室に驚き顔を真っ赤にしている。
そして、俺から飛び離れようとしたから、腰を引き寄せた。
恥ずかしさのあまり、は俺の胸に顔を埋めている。
レノは間抜け面を晒していた。
そして「あー、早めに来てくれたら嬉しいぞ、と」と言って、慌てて部屋から出て行った。
そういえば、これからジュノンに出張だったな。
あまり早めに行きたくはないな、そんなことを思いながらの頭を撫でた。
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短っ。
ほどほどに軽いノリを交えつつ。