【甘い味の方がいい】





 仮眠をとるつもりが熟睡してしまったらしい。レースのカーテンの向こう側は夕焼けが広がっていて、干したままの洗濯物が風になびいている。慌てて洗濯物を取り込んで畳んでしまってリビングへ行くと、自室には似合わない白い服をまとった人が本を読んでいた。テーブルに置かれたマグカップは自分で用意したのだろうか。ページをめくる音が静まり返ったリビングに響く。本から視線をこちらへ動かしたルーファウスの所作が美しくて言葉を発せなかった。その唇が言葉を紡いで我に返る。

「よく眠っていたようだな」
「来てたなら起こしてくれればよかったのに。暇だったでしょうに。コーヒーでも飲んだの?」
「勝手にもらった」

 覗き込んだマグカップは空になっていたのでシンクへ運ぶ。神羅カンパニーの社長が一般市民の部屋にいるのはとても似合わないけれど、合鍵を欲したのはルーファウス自身だ。私たちが出会ったのは偶然で、恋に落ちたのは運命なのかもしれない。
 本を閉じてテーブルの上に置いたルーファウスは手招きして私を呼び寄せる。近づくと手首を掴まれて、前かがみになったところで座っていたルーファウスの唇に吸い寄せられるようにキスをした。ほんのりとコーヒーの味がする。あぁ、私もコーヒーを飲もうか。

「甘い方がいい」
「自分で飲んでください」
「甘すぎる」

 キスで甘いものを摂取するなんて聞いたことがない。

「チョコレートでもいいですか?」
「私は何でも構わないが」

 ストックしているお菓子の中からチョコレートをひとつまみ食べてルーファウスに口付ける。満足そうに口角を上げたルーファウスを見て、意外と安い人だなと思ったことは内緒だ。




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一時期、社長はギャグばかり書いてたので、たまには大人の色気がある話がいいなと思いながら書きました。色気があるかは不明ですが。

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