[ セブンティー・シークレット ]



 事務員が休暇や体調不良で全員不在。仕方がないので部員で手分けして事務員の作業をこなしているが、慣れないもので苦戦している。蓄積された疲労には糖分摂取。売店で買ったチョコレートをつまみながらパソコンに入力していると、部長から急ぎで書類回覧を頼まれる。
 宛先をよく確認せずに封筒を受け取り、廊下をふらふら歩いて気づく。宛先がどこだかさっぱりわからない。地下から70階まで網羅している社員なんているのだろうか。70階に何があるかなんて知る由もなし。
 エレベーターで到着できる階層は69階のエグゼクティブフロア。69階までエレベーターで移動し、恐る恐る入口のカードリーダーに社員証をかざすとあっさり扉は開いた。
 私の社員証でここに入れるの、知らなかった。
 奥の階段を上れば70階に到着。写真で見たことはあったが来るのは初めてだ。そしてようやく思い出す。一面ガラス張りの70階はプレジデントフロア、前社長の名前がついているが社長室だ。
 この書類、社長宛なの? 私のような平社員が届けていいの? 普段は事務員が届けているの? 上層部の社員からの書類しか受け取らないんじゃないの?
 人の気配はしないのでどうやら社長は不在らしい。鬼の居ぬ間になんとやら、だ。デスクの上に封筒を置いて戻ろうとするが、少し開いた引き出しから写真がはみ出ていた。引き出しの中に入れようとして魔が差してしまい、こっそり写真を引き抜いて唖然とする。
 狙った獲物は逃さない社長の次なる標的は私。どうして? 私が何をしたっていうの? 家族だって平社員。命を狙われるようなことはしていない。
 身の危険を感じながら走って階段へ向かうが屋上へ続く扉から声がして、背筋が凍り付いたように立ち止まる。

「走るな」
「は、はひっ」
「返事がなってないな。『はい』と言えないのか?」
「ひっ、ひいぃ、申し訳ありません。金輪際走りません」

 写真でしか見たことはない我が社の若社長。整った顔立ちに流れるようなブロンドヘア、美しすぎて卒倒しそうだ。へっぴり腰になりながら後ずさりするが、瞬間移動したかのように社長は私の背後に回り、両腕を縛ってしまう。手首を強く掴まれ、痕でも残りそうだ。

「い、痛いです、社長」
「すまない」

 社長はあっさり手首を離してくれた。おじぎをして69階を目指すが、再び呼び止められる。


「は、はいっ!」
「返事は?」
「……はい」

 私の写真を持っているくらいなのだから、名前も知っているはず。私のことを調べ上げて、私以上に私のことを知っているかもしれない、恐ろしい人。
 私が何をしたというのだろう。プレートの上で生まれ育ち、大学を出て神羅カンパニーに就職した。タークスやアバランチに目をつけられないように、慎ましやかに過ごしてきたつもりだ。
 威圧感に押しつぶされそうだ。目を合わせることができず俯いていると、先程とは違い優しさをはらんだ声に包まれた。

「そう固くなるな」
「と、言われましても、私のような平社員が何をしたっていうのでしょうか」
「あぁ、あの写真を見たのか」
「申し訳ありません」
「あれは私がレノに撮らせた。盗撮だな。訴えるか?」

 言葉に詰まった。盗撮を訴えようとは思わない。ただ、私の写真を必要とした理由が知りたい。素直に伝えると、社長は意外にも理由を話してくれた。そして、想定の範囲外の理由に驚き腰を抜かしてしまう。

「愛しいものの写真を手元に置きたいとは思わないか?」
「い、いとしいとは?」
の勤務態度は良好、書類も常に丁寧かつ簡潔にまとまっている。字はひととなりを表すというが、美しい字を書く。同僚からの評判もよい」
「あ、あの……」
「私の秘書にならないか?」

 風の噂で聞いたことがある。社長は冷徹で、タークス以外はあまり信用していない。秘書代わりのタークスも、タークスとしての仕事があり手が回らないのだろう。
 タークスと肩を並べられるのはソルジャーくらいだというのに、平社員の私が社長秘書を務められるわけがない。断ろうとしたが社長は同じセリフを繰り返す。

「お断りします」
「私の秘書にならないか?」
「お断りしますと言ったじゃないですか」
「私の秘書にならないか?」
「ちょっと、もう……」

 肩を落として項垂れると、社長が小さく笑い声をあげた。顔をあげると社長は微笑んでいる。とても冷徹な人とは思えないくらい、穏やかで優しい表情だった。不覚にも胸がときめいてしまう。
「返事は急がないが、良い返事を待っている」と耳元で囁かれ、体の力が抜けてしまった。
 社長は床にしゃがみこんだ私を抱き上げる、ということはなく、ほくそ笑んで69階へ続く階段を降りていく。普通助けるでしょ! と心の中でツッコミを入れつつ、よろよろと立ち上がる。
 社長の一存で私を秘書課に異動させることなんていくらでもできるというのに、どうしてしないのだろう。強硬手段は好きではないのか、いや、好き放題しているはずだ。溜息をつきながら69階へ向かいエレベーターを待った。到着したエレベーターの扉が開くと赤毛の先客がいて、私の顔をじーっと見つめて笑う。失礼だな、タークスのレノさんは。

「お! 社長夫人、元気にしてるか?」
「社長夫人?」
「おっと、早かったか。未来の社長夫人だぞ、と」

 自分の部署のフロアへ戻ると、部長は「優秀な人材を手放すのは惜しい」と嘆き、同僚には「おめでとうございます」と祝われる。何がめでたいのかさっぱりわからない。
 それ以来一か月もの間、レノさんから秘書課への勧誘攻撃を受け、折れた私は受け入れたのだが、その一週間後に社長からプロポーズされるのはまた別の話。




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神羅カンパニーのしがないOLで……というリクエストがあったので書いたのですが、ダメだ、 どうしても社長はこういう話になってしまううぅ。 どこでどう間違ったのだろう。
今度は社長と普通の恋愛する人を書きますね。
FF7Rをプレイして綺麗な神羅ビル見るとわくわくします。タークスのフロアまであって豪華豪華。社長が美しすぎて……。


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