[ サクラひらひら ]





桜の花びらが、ひらひらと舞い、道端に落ちる。
桜並木も、ピークは過ぎて葉桜に近づいている。
次の春は、平和な世の中になっているだろうか。
次の春こそは、貴方の車椅子を押さずに、2人並んで満開の桜を楽しむことができればと、切に願う。


「どうした、? 疲れただろう? 少し休もう」
「いいえ、大丈夫です」
「歩く速度が落ちている。休んだ方がいい」
「桜が、綺麗なものですから」
「そうだな」


社長が桜に興味を示したのは意外だった。
仕事のことしか考えていない、仕事人間。
星痕症候群になって車椅子生活になっても、それは変わらない。
車椅子を押す私のことを、社長はどう思っているのだろう。

集中、集中。社長の車椅子を押すことに集中。
外の空気を吸いたいという社長を連れ出して二人きり。
ずっと傍に居ても、社長は私の想いには気づくこともないだろう。


「止めてくれ」
「あ、はい」
「少し、桜を見ようか」
「え? あ、はい」


車椅子を止めて、桜の木を見上げる。
花びらが目の前に降ってきた。
手を出すと、吸い込まれるように花びらが一枚舞い降りた。
鼻にかざして息を吸い込むと、桜の匂いに心が満たされる。


「桜が好きなのか?」
「特に好き、というわけではないですけれど、この季節にしか味わえないものですから」
「そうか。他には?」
「他、ですか?」
「他に好きなものは無いのか、と訊いている」


このやりとりに意味はあるの?
ただの暇つぶし?
社長の気まぐれなんて無いに等しい。
黙っていると、桜を見上げた社長が呟く。


「私はのこと、何も知らないからな」
「あの……?」
「長い間ずっと一緒に過ごしているのに、世話になってばかりで何も返してやれない」
「返す必要なんてないですよ。仕事ですから」


自分で言っておいて、心が痛む。
仕事だから社長といるわけではない。
社長を好いているから。もちろん恋心もあるし、上司として慕っている。
だから、社長の役に立てればそれでいい。車椅子を押したり、料理をするくらいしか能のない私だけれど。

夕飯の支度をしなければ。買い物にも行っていない。
社長は私をじっと見ていた。


「行こうか。夕飯の買い物がまだなのだろう?」
「あ、はい。よくご存じで」
「顔に書いてあった」
「そんなにわかりやすいですか」
「朝から私に付き合わせているからな。それでこの時間。予想はつく。頭を使えば簡単なこと。それ以外はまったくもって」
「まったくもって?」
「まったくもって、のことは何も知らないから、知りたいと思う」


今日の社長はどうかしている。
けれど、私のことを知りたいと思ってくれていることが嬉しかった。


「なんですか? 何が知りたいのですか?」
「そうだな……」


社長に根掘り葉掘り尋ねられて、うっかり社長に恋していることを漏らしそうになった。
これだけは、まだ言えない。
でも、いつか、伝えられる日が来たら。




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FF7の世界に桜ってあるのかな……
両片想いな二人。


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