※すべて別ヒロインの想定




立ち振る舞いが美しいと思った。
一目惚れだった。
手に入れたいと思った。それと同時に手に入れることができそうにないと思った。
形式上ならばどうにでもなりそうだった。ただ、そんなものは欲しくなかった。

根掘り葉掘り尋ねるものだから、私がに気があるということは周知の事実になっている。
そんなことはどうでもよかった。
接点ができれば何でもよかった。
ただ、神羅ビルの中で挨拶を交わすだけの関係、それを変えたかった。
もっと深い関係に、親しい仲に変えたかった。

レノがエレベーターのボタンを押し間違え、降りたフロアは一般社員のフロアだった。
気づいた時にはエレベーターは別の階へ向かってしまった。
仕方なくエレベーターが再び来るのを待つ。
待つ間、降りたフロアの廊下を歩いた。
窓際で紙パックのジュースを飲むは、外を眺めている。
私がいることに気づいていないようだ。
窓の外に何かを見つけて、微笑んだ。
子供っぽさを含んだ、かわいらしい笑みだった。


「何があるんだ?」
「しゃ、社長! あ、いえ、その……」
「猫、か」
「はい、猫がうちの課長に向かって鳴いていたので、つい」
「猫が好きなのか? それとも課長が好きなのか?」
「はい!?」


驚いたは顔を真っ赤にして、目を白黒させている。
意外だった。
いつでも冷静沈着のように見えたが、そうでもないらしい。
それもまた愛らしい。


「猫が好きです。課長は既婚者なので興味はありません」
「そうか。独身の相手ならよいのだな」
「えぇ、まぁ、はい」


私にもチャンスはあるらしい。





[石英は呼吸する]










目が覚めたらベッドの隣は空だった。
シーツに触れてもぬくもりは感じない。
キッチンから物音がしたので、ベッドから転がり出た。
とろんとした目で、は水を飲んでいる。


「起きたのか?」
「ルーファウス? 喉が渇いちゃって。飲む?」
「あぁ、もらう」


グラスの水はあっという間に空になった。
流し台に置くと、は寝室へ戻っていく。
足取りが蛇行している。


「大丈夫か? 調子、悪いのか?」
「んー、眠い」


ベッドの上にどさっと倒れる
掛布団を下敷きにしてしまっている。
を抱き上げ掛布団をはがし、ゆっくりと体をベッドの上に横たわらせる。
その隣に自分も体を横たわらせ、掛布団をかぶる。
目を閉じると、が抱きついてきた。


「どうした?」
「何でもない。眠い」


さっきから眠いの一点張り。
不機嫌さで、甘えている部分を相殺しようとしているのだろうか。


「ゆっくり眠ればいい」
「うん」
「おやすみ」


そっとを抱きしめると、胸に顔をすり寄せてきた。
もっと甘えてくればいい。
いくらでも受けとめるから。





[永遠を識るこどもたち]









真っ赤なバラの花びらが舞う。
私が散らした。
百本のバラでプロポーズなんて夢みたいだ。

と、私が頬を赤く染めて言うとでも思ったのだろうか。
馬鹿じゃないの? と顔を突き合わせて言うつもりはないが、バラの高貴さを漂わせた香りに目眩がする。


「職場でこのようなことをされると、非常に迷惑なのですが……」
の上司の許可はとってある」
「そういう問題じゃないでしょ」
「そういう問題だ」


ため息をついて、バラの花束を抱えた。
ルーファウスの手首を掴んで、職場の外に出る。
廊下には神羅カンパニー社長の顔を一目見ようと野次馬がいた。
廊下も駄目か。
階段を使って屋上へ行く。
昼休みではないから、誰もいなかった。
ようやくまともに話し合える。いや、二人きりになったところでかみ合わない会話に苦労するだけだ。


「ルーファウスさんのプロポーズはお断りします」
「なぜ?」
「好きでもない人と一緒になるつもりはありません」
「では、好きになってもらおう」
「あのー? 私の話、聞いてます?」


バラを一本引き抜き、花びらをちぎって空に向かって投げた。
花の香りは好きだ。


「新婚旅行はどこがいい?」
「はいはい。わかりました。もう私の人生からあなたを締め出すのは諦めますよ。
 新婚旅行に行くなら、そうですね、綺麗な花がたくさんあるところがいいです」





[せかいじゅうの花が在る場所]





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短編つめあわせの中編。タイトルはalkalismさんより拝借。
最終的にね、ツンデレ娘が出てきてしまうんだよ……
そうじゃないヒロインにしようと思ったのに。

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