※たまに続いてる話がありますが、基本は別ヒロイン





どうにもこうにも歩けそうにない。
街角でしゃがみこんだ。
暑くて眩暈がする。
買ったばかりの水を少し飲んだら気持ちが楽になった。
誰か、迎えに来てくれないかな。そう思っていると、白いスーツの男性がこちらへ近づいてきた。
白いスーツといえばルーファウス社長しかいない。
社長は私の目の前でしゃがむ。


、どうした? 具合が悪いのか?」
「ルーファウス様。暑さにやられたみたいです。少し休んでから戻ります」
「今日は歩きだから車に乗せてやれなくてすまない。すぐに車を呼ぼう」
「いいえ、とんでもない。どうぞ先にお戻りください」
がここにいるのなら、私もここにいよう」


社長は私の隣に座る。
神羅カンパニーの社長を地べたに座らせるくらいなら、私が無理をして歩いた方がいい。
立ち上がって謝罪しようとしたが、よろめいて倒れそうになる。
地に手を伸ばしたが、腕ごと掬われた。

しっかりと私を抱き留めるのは社長の腕。
細腕に見えるが、スーツの下の体は鍛え上げられているのだろう。でなきゃ、神羅カンパニーの社長なんて務まらない。


「無理をするな。そんなに早く戻りたいのか」
「社長にご迷惑をお掛けするわけにはいきません」
「そんなに私の隣にいるのが嫌か」
「滅相もございません!」


とにかく離れないと。
社長の胸を押し返そうとするが、体に力が入らない。
まだ眩暈がする。
もう社長に寄りかかるしかない。


「社長、座らせてもらえませんか」
「そんなに私から離れたいか」
「もう、立ってられないので」
「わかった」


これでようやく座れる。社長から離れられると思った。
けれど、逆に密着する形になり焦る。
抱き上げられて、私の体は宙に浮く。
抗議しようとした口は、柔らかいもので蓋をされてしまった。





[世界ごと連れて行った]










「もう、何度言ったらわかるんですか! 迷惑なんで、やめてください」
「何度言ったらわかるんだ。私はに好意を抱いているからやめない」
「それが、迷惑だと言ってるんです」


また、やってしまった。
冷たく当たってしまった。
社長に優しくされて嬉しくないわけがない。
社長が私に好意を持ってくれていることは嬉しい。

でも、何のとりえもない平社員が、社長と釣り合うわけがない。
身分も、外見も、性格も、思考も、社長の隣にいるにはふさわしくない。
お見合いでも、政略結婚でも、なんでもすればいいのに。
私のことなんか、忘れてしまえばいいのに。

それなのに、社長のことを忘れるために仕事を辞めない私がいる。
口では迷惑だと言っているのに、誰にも訴えない私がいる。

昼の晴れが嘘のようにどしゃぶりの夜。
帰り道の途中で立ち往生する。
周りの店は閉まっていて、傘を買うこともできない。
もう家に帰るだけだからびしょ濡れになっても構わないか。
濡れないように鞄を胸に抱き、人通りのない商店街を駆ける。
水たまりに足を踏み入れれば、水しぶきが顔にまで跳ね上がってきた。

たいして走っていないのに息があがってくる。
足の回転数も落ちてきた。
結局、とぼとぼ歩き始めて笑ってしまう。

急に視界が真っ白になり、雨が止んだ。
爽やかな匂いのするこれは、白いバスタオル。
タオルの隙間から外を覗けば、ビニール傘を差した社長が立っていた。


「社長……」
「風邪を引く」
「これくらい大丈夫です。もう、帰るだけですから」
「いいから、すぐに体を拭いて、傘を差して帰るんだ」
「大丈夫です。間に合ってます」


タオルを社長に投げつけ、走って逃げた。
悔しくて涙がこぼれた。
優しくしてもらえて、嬉しかった。気遣ってもらえて、嬉しかった。
素直に受け止められなくて、いつも拒絶してしまう。
タオルを借りたかった。傘も借りたかった。

寒くて、凍えそうだ。





[やさしくしたいよ]










不法侵入は百も承知。
神羅カンパニーの社長の肩書を使ってあがりこんだの部屋は、若い女の部屋にしては質素だった。
寝室のベッドの上に横たわり、微動だにしない
生きているのか不安になる。
近づけば、呼吸で胸が上下している様子が伺えた。

何度迷惑だと言われようが、私の気持ちに変わりはない。
に好意を抱いている。
特別な何かを、運命めいたものを、他の女性には感じないものを、から感じる。

押して駄目なら引いてみろ。
そうレノに言われた。だが、できそうにない。
かといって、無理に籠の中へ閉じ込めることもできなかった。
何もかも中途半端だぞ、と。レノの言葉が頭をよぎる。

の額に掌を当てる。
少し触れただけで熱かった。何度くらいあるのだろうか。
ツォンに渡された冷却シートをの額に貼る。
少しでも楽になればいい。

しばらくの寝顔を眺めていた。
熱があるわりに、穏やかな表情をしている。
私の前では絶対に見せない表情。
私には物陰からしか見ることのできない、好きな表情。

一度でいい。
私に向けて穏やかな優しい笑みを見せてくれるのなら、のことを諦めてもいい。





[眠れるアイボリー]





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短編つめあわせの前半。タイトルはalkalismさんより拝借。
半分くらい書いたし、と思ったら3つしか書いてなかったorz

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